クルマのチューニングとして最も手軽でその効果を体感できるのがタイヤ交換だと言われている。古タイヤを新品にした時の変化は感涙ものだ。
タイヤを交換する時にまず銘柄を考える人は多いと思うが、サイズに関しても悩みは尽きない。純正と同じサイズにするか、それともインチアップするか。
いっぽう、純正のタイヤサイズが大きく立派になっている昨今、こんな立派なタイヤはいらないから、性能を落とさずにインチダウンできないか? と考えているユーザーもいるはず。
本企画ではタイヤのスペシャリストの斎藤聡氏が、インチアップ、インチダウンそれぞれのメリット&デメリットをわかりやすく解説する。
文:斎藤聡/写真:奥隅圭之、池之平昌信、平野学、ベストカーWeb編集部
タイヤが大きく薄いのはクルマをカッコよく見せる常套手段
クルマのデザインスケッチを見ると大抵……というかほぼすべて、カーデザイナーが描くタイヤは、ホイールが大きくタイヤが薄い。
クルマのカッコよさ≒インチアップ+偏平タイヤがというのは、クルマ好きの共通認識ではないだろうか。やはりドレスアップにタイヤ&ホイールのインチアップは欠かせない要素だろう。
その前にインチアップ&ダウンをするにあたっての基礎知識として、ロードインデックスとエクストラロード(XL)/レインフォースド(RFD)規格について少し解説しておこう。
ロードインデックスは、タイヤ一輪が受け持てる荷重指数で、例えばタイヤ側面に215/45R17 87Wなどとタイヤサイズが書かれているが、この87がロードインデックス。インチアップする時は、なるだけこの数字が下がらないようにする必要がある。
ところがあるタイヤサイズでは、インチアップするとロードインデックスが下がってしまうサイズがある。
そのためタイヤ内部の構造を強くしてスタンダードのタイヤより空気を多く充填できるように作り、ロードインデックスを高く設定したタイヤが作られているのだ。
それがLX/RFD規格のタイヤというわけだ。例えば205/50R16 91Vをインチアップする時、スタンダードなタイヤだと215/45R17 87WになるがXL/RFD規格のタイヤは215/45R17 91W XLとなり、ロードインデックスが合う。
ただし 一般的なタイヤの空気圧の基準(上限)が240kPs(キロパスカル≒2.4kg/cm2)で設定されているのに対しXL/RFD規格のタイヤは、280kPsとなっているので、空気圧の充填量が変わってくるので注意が必要だ。
これらはタイヤカタログの後ろのほうに書かれているので、参考にするといいだろう。
インチアップのメリットとは?
例えば、205/55R16サイズのタイヤをインチアップする時、たいていの場合はサイズアップも同時に行い215/45R17XLとか225/45R17といったサイズになる。これはタイヤ外径やロードインデックスによって決まってくるからだ。
インチアップする際はたいていタイヤサイズも幅広くするのが一般的だ。すると接地面積が広くなり絶対的なグリップ性能が高くなる。グリップ性能が高くなれば、普通に運転しているときも安心感が高いし、コーナーリング性能も高くなる(ことが多い)。
また、タイヤの変形が少なくなることで操縦性がシャープになる(傾向にある)。タイヤの偏平率が高くなれば……、つまりタイヤが薄く偏平になれば、タイヤの変形量が少なくなる。するとハンドルを切ってから操作が路面に伝わるまでの時間が短くなるので、応答性がよくなる。ハンドルを切った時、よりシャキッとした操縦性になる。
偏平率が高くなると、タイヤは構造的にも高速向きの設計になるので、速度レンジもより高速に対応したものとなる。
ちなみに速度レンジはタイヤサイズの一番後ろに書かれたV、W、Yといった文字で示されていて、Vは240km/h、Wは270km/h、Yは300km/hが最高速度であることを示している。
より高速に対応できるということは、それだけタイヤの変形が少なく安定して性能を発揮することができるということ。
なので、インチアップやサイズアップによって速度レンジが上がると、それだけ高速域での性能が高くなるということでもあるのだ。
インチアップのデメリットは?
これは乗ってからのというよりもタイヤ選びで注意点だが、インチアップ+サイズアップで問題にあるのがフェンダーやホイールアーチ内との干渉。停止状態では問題ないがカーブでタイヤが干渉することもある。
またロードインデックスで説明したように、インチアップによってロードインデックスが純正タイヤよい低くなると、手応えがあやふやになったり、カーブでタイヤが腰砕けを起こして曲がりにくくなるなど操縦性が悪くなることがある。
インチアップして操縦性や乗り心地の面でのデメリットでまず挙がるのは乗り心地だろう。といっても常識的なインチアップをする限り、極端に悪くなるわけではないし、低偏平にしても乗り心地いいタイヤはある。ただ傾向としてケース(骨格)剛性が上がるぶん相対的に硬めの乗り心地になる。
操縦性の面では限界域の挙動が唐突になりやすい。スタッドレスタイヤを例にとるとわかりやすいのだが、滑り出しの挙動が速くなる。ズズズ…と滑り出していたのがツツーッと滑るようになる。
こうした特性が気になる場合、ブレーキキャリパーとの干渉がなければ、18インチを17インチにインチダウンしてタイヤの偏平率を45→50偏平等にすることで、限界挙動を穏やかにする方法もある。
偏平化してエアボリュームが少なくなるとしなやかな乗り味が薄れるので、乗り心地を目的としたインチダウンも一つの考え方だ。
もうひとつ、50、45偏平16、17、18インチホイールになるとインチアップによるホイール重量が増し、ホイールがバタついて乗り心地が悪くなったりすることもある。
軽量ホイールとの組み合わせで対処できるが剛性が足りないホイールは操縦性を悪化させることも知っておきたい。
それからロールの大きなクルマに40,35,30偏平と、偏平率が高いタイヤを履くと、カーブで接地面が大きく変化して操縦性が悪くなることがある。超低偏平タイヤはロールの少ないスポーティな足回りとのマッチングがいい。
等々、いろいろ書いてきたが、ポイントは、タイヤ外径とロードインデックスを見ながら常識的な範囲でインチアップすること。
そうすればインチアップのメリットを実感することができるはず。逆に無茶なインチアップはデメリットのほうが多く、デザイン以外に見るべき点がなくなってしまうということもある。
インチダウンのメリットとデメリット
極論すると、タイヤは偏平になればなるほどシャープになり、限界特性は唐突になる。反対に、タイヤはぶ厚くなるほど穏やかになり、限界特性もマイルドになる。スポーティカーやスポーツカーは当然シャープなタイヤを好み、セダンはマイルドなタイヤを好む。
ただ最近の風潮としてクルマが大きくなってきたこともあって、タイヤサイズが大きくなり、それとともに低偏平化が進んでいる。
インプレッサWRXにブレンボが搭載された頃、ラリー用に15インチの設定があった。その時も、ブレンボ製ブレーキは装着できなかった。
インチダウン最大のデメリットは、大径ブレーキが付かないこと。わざわざインチダウンするために自分ブレーキローター&キャリパーを交換する人はいないだろうが(いたらすでに説明の必要ないので勝手にやっててもらってOK)、1サイズ小さなホイールを履かせるためにまず考えなければいけないのはブレーキとの干渉だ。
実はそれ以外あまりデメリットは見当たらない。もちろんビジュアル的にカッコ悪くなる可能性は高いけれど……。
では、メリットは何かといえば、例えば60偏平のタイヤを70偏平、82偏平にする必要はないと思うが、40,45,偏平あたりを50,55,60偏平にするのは、かなり有効なことがある。
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