来るべきして訪れた燃費合戦
日本に燃費革命を起こした20プリウスの登場は2003年のことだが、その大成功を見たライバルメーカーも燃費の重要性を強く意識するようになる。
政府も環境政策として燃費のいいエコカーの普及を目指す制度を発案。2009年から取得税や重量税減税のインセンティブを与える「エコカー減税」がスタートする。
この制度、最初は平成22年燃費基準をベースに、+25%、+20%、+15%の達成を条件として減税の特典が与えられるというもので、金銭的なメリットはそんなに大きなものではなかったのだが、こういうわかりやすいハードルが設定されると、自動車メーカーの技術者は燃える。
こういう条件が整ったことで、空前の燃費競争が始まったというわけだ。
当初の目標はノンハイブリッドでリッター30kmに誰が一番乗りをするかという競争だったが、普通車では2011年にマイチェンした最初期型スカイアクティブGのデミオ、軽では2011年発売のミラ・イースがあっさりこのハードルをクリア。すでにリッター38.0kmを達成していた三代目プリウスを追いかける競争が活況を呈してくる。
優遇税制のためにあの手この手を駆使
この当時、普通のクルマの燃費がどんどん向上していった印象があるが、それは技術的に未開拓の分野がたくさん残されていたから。このころの燃費計測モードは10・15モードからJC08モードへの移行期だったが、いずれにせよ最近のWLTCなどと比べるとだいぶ「ゆるい」設定。そのぶん燃費を向上させるためのネタも豊富に残されていたのだ。
しかし、こういうイージーな“鉱脈”はすぐ掘り尽くされてしまい、次にはじまったのはチート探し。実用燃費にはあまり効果がないようなことでも、あの手この手のモード燃費チューンが行われるという弊害が出はじめる。
よく使われたのは、燃料タンク容量を小さくしてカタログ上の車重を軽くし、燃費試験の際の等価慣性重量をひとクラス下に潜り込ませるという手法。ライト級のボクサーが計量時だけフライ級まで体重を絞るようなもので、これはけっこう効果があった。
また、逆に車重を増やしてひとクラス上の等価慣性重量に移行する手もあった。基準燃費は車重クラスによって変わるため、燃費が同じなら「体重の重いクラス」にはいった方が「基準燃費+何%」では有利。税制上の優遇措置が受けやすいわけだ。
また、アイドル停止機能も大いに効果のある装備だった。JC08モードは停止時間が約30%もあるから、アイドル停止があるとモード燃費の数字は劇的に向上する。軽にいたるまで短期間にアイドル停止が普及したのはそのためだ。
燃費狂騒終焉への引き金
この過程で、いちばん激しい燃費競争が戦われたのが軽自動車業界だった。
ダイハツがこう出れば、スズキがこう返す。この両社の抜きつ抜かれつの燃費競争は、もはやユーザーを置き去りにしてメーカーの意地の張り合いとった様相を呈していた。
その戦いに巻き込まれて大失敗したのが、三菱eK/日産デイズの燃費偽装事件だった。
三菱の燃費偽装事件は2016年のことだったが、このあたりから「単に燃費の数字だけを狙っても意味がない」といった認識が一般化してきたように思う。三菱と同じ2016年にはスズキ、2018年にはスバルの燃費データの改ざんが発覚。
これはぼくの個人的な感触だが、この頃すでにユーザーは燃費競争に醒めていて、おそらく「業界平均の燃費性能が出ていれば、別にクラストップにはこだわらない」という認識が多数派だった。
にもかかわらず、誰よりも数字を追いかけていたのは、じつは経営者、営業部隊、エンジニア幹部などメーカーの当事者。ユーザーをそっちのけにした業界中の争いが、この残念な不祥事の原因だったように思えてならない。
この事件の後、軽の燃費競争に火をつけたダイハツがまず燃費競争から離脱。2017年発売の二代目ミラ・イースでは、実用性能を重視したパワートレーン造りに専念。これをきっかけに、クラストップにこだわる無理な燃費競争は終息してゆく。
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