先日、「日産シーマが生産終了」というニュースが流れた。元日産社員の筆者としては、とても衝撃的なニュースだったのだが、これは、シーマと同じプラットフォーム使っているフーガの海外版である「INFINITI Q70」が、2019年を持って販売終了することが明らかになったことを受けて流れた「誤報」だった。
しかし、そんな誤情報が流れてしまうのも、シーマが直近の月間販売台数で10~20台と、全く売れていないからであろう。
一時は「売れに売れた」シーマだったが、今やもう、その面影もない。
もうシーマは「オワコン」なのだろうか。日産で新車開発エンジニアをしていた筆者が考察する。
文:吉川賢一/写真:NISSAN、TOYOTA
シーマ現象の再来は可能か?
「シーマ現象」という言葉は、今この記事を読んでいただいている諸兄ならば聞いたことはあるだろう。
1988年に、「セドリック」と「グロリア」の上級仕様として、それぞれ「セドリックシーマ」、「グロリアシーマ」として誕生し、国産初のパーソナルユース3ナンバー車として登場したクルマだ。
国産車離れしたボディスタイルとターボ付きのパワフルなVG30DETエンジン、電子制御エアサスペンションによる極上の乗り心地など、当時シーマには、他メーカー車に勝る魅力が、多くあった。
特に、アクセルを「グッ」と踏み込むと、リアのセミトレーリングアームサスを一度沈み込ませてから、暴力的ともいえる加速をする姿など、当時の小金持ちの男性を釘付けにしたそうだ。
当時は、3ナンバー車へのあこがれの高まった時代であり、また、1980年代末のバブル経済も後押しとなって、500万円近くした高級車のシーマを、20~30代の若者がこぞって買う、という現象がおきた。
爆発的人気となったシーマは、4年間で12万9000台を販売したという。日産は、「憧れの3ナンバー車に乗りたい」という顧客の情緒的な心理を、バブル経済による後押しを活用し、見事にヒットさせたのだ。
しかし、2019年末の現在は、「コスパ至上主義」のご時世にあり、また、若者のクルマに対する価値観の変化もある中で、「シーマ現象」の再来など、あるわけもない。
さらに当時とは違い、現代は、メルセデス、BMW、アウディのような輸入高級車が多く入ってきており、国産車であってもレクサスという強敵がいる。このような中で、シーマが戦いに挑んでも、売れるどころか、それこそ本当に、シーマの存続が危ぶまれる状態になりかねない。
シーマを復活させるには?
カッコいいエクステリアデザイン、最新デジタルメーターなどの豪華なインテリア、新型エンジンとスムーズな多段トランスミッション、電子制御サスペンション、DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)、進化したプロパイロット2.0など、日産が持つ技術をてんこ盛りに全部乗せして「フラッグシップのシーマだ」と言ったところで、シーマが売れることはないだろう。
日産が誇るプロパイロット2.0も、技術的には既に他メーカーも実現可能なレベルで保有している。こうした最新装備は、他メーカーも直ぐに追いつき、あっという間に抜かれる。
これらにキャッチアップすることはもちろん大切なのだが、すでに奈落の底に落ちてしまったシーマを復活させるには「お客様がシーマを指名買いしたくなる仕掛け」が必要となる。例えば、こんな仕掛けはどうだろうか。
(1)後席は左右対称にするなど、法人ユースとして徹底的に配慮した装備(2)歴代シーマを彷彿させる大型グリルやオーナメントなど、フーガとは差別化したひと目でシーマとわかる造形
(3)所有したいと思わせる情緒的価値、ストーリーを与える
(3)に関して、例えば、過去のシーマと同じデザインのボンネットマスコット復活や、毎年〇百台の限定生産とする、ハイパフォーマンスセンターでの整備管理、日産グローバル本社での納車式、シーマで行く国内旅行プランを定期的にプレゼントするなど、お客様の記憶に残るような販売企画がいいだろう。
すでに他メーカーで導入されている企画もあるかもしれないが、高級車であるシーマを「所有し続けたい」とお客様に思ってもらうには、こうしたハードとソフト両面からのおもてなしが必要ではないだろうか。
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