2020年2月に発売された新型フィットとヤリスの価格を見て、「コンパクトカーってこんなに高かったっけ?」と思った人も多いのではないだろうか?
新型フィットの価格は1.3Lガソリンのベーシックが155万7600円、1.3Lガソリンの量販車種のホームが171万8200円。ハイブリッドのe:HEVにいたっては、ベーシックが199万7600円、量販車種のホームが206万8000円だ。
ヤリスにしても1.5LのベーシックグレードのXは159万8000円、量販車種のGは175万6000円。ハイブリッドのXは199万8000円、量販車種のGは213万円。たしか、昔のフィットやヴィッツは130万円台で買えたはずなのに……。
軽自動車に至っては、ターボ付きだと170万円台、カスタム系だと200万円近くしている。
衝突安全性強化や安全装備が充実したから、価格が上がるのはしょうがない、といってしまえばそれまでだが、はたして、内容に見合った分だけ価格がアップしているのか? それともメーカーがむやみに価格を釣り上げているのか?
そこで、モータージャーナリストの渡辺陽一郎氏がフィットとワゴンRの歴代モデルの価格を調べて徹底分析した。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカー編集部 ベストカーWeb編集部
【画像ギャラリー】どれだけ価格がアップしたのか? 昔のフィットとワゴンRはこんなに安かった!
歴代フィットの価格はどう変化した?
最近は小さなクルマに乗り替える「ダウンサイジング」が増えた。大きなクルマから、環境&燃費性能の優れた小さなクルマに愛車を変更するのは、賢いイメージもある。
しかし、小さなクルマに乗り替えるユーザーの立場は切実だ。設計の新しいクルマには衝突被害軽減ブレーキなどが装着されて安全性も高まり、マイルドタイプを含めたハイブリッドシステムなども採用されて燃料消費量を抑えている。この技術進歩は喜ばしいが、価格上昇も避けられない。
その一方で、国民生活基礎調査によると、1世帯当たりの平均所得金額は、1994年の664万2000円が最も高かった。
それ以降は減少して、2017年は551万6000円だ。今でも約25年前の所得水準に戻っていない。ピーク時に比べると、1年間の平均所得が113万円も減った。
つまりクルマの価格は高まり、所得は減少したから、購入する車種を小さくするしかない。誰もが好んで小さなクルマに乗り替えているわけではないのだ。
そこでクルマの価格がどのように変化したのか、具体的に見ていきたい。
サンプルとして、2020年2月に新型にフルモデルチェンジしたコンパクトカーのフィットと、軽自動車のなかから歴史の長いワゴンRを取り上げる。
フィットは2001年、ワゴンRは1993年に初代モデルを発売しており、価格推移も分かりやすい。両車とも人気車だから、各カテゴリーを代表するプライスリーダーでもある。
まずフィットだが、2001年の発売時点で設定されたグレードは3種類であった。最上級のWは、電動格納式ドアミラー、エアコンのオート機能などを標準装着して、当時の税抜き本体価格は126万円だ。今と同じく消費税が10%とすれば、税込価格は138万6000円になる。
この換算により、価格の印象がかなり変わる。消費税が価格に含まれて表示される内税(総額表示方式)に変わったのは2004年4月であった。それ以前は消費税を含まない本体価格表示だ。
2004年4月以前の金額を記憶しているため、今の価格に割高感が生じている面もある。
そこを補正することも考えて、本稿の計算では、消費税をすべて10%に換算する。税抜きの本体価格で話を進めるより、消費税10%に換算した方が、実感が沸きやすいと思う。
ちなみに現行フィットに1.3L、NAエンジンを搭載する1.3ホームの価格は、現在の10%消費税を含めた表示では171万8200円だ。
これを税抜本体価格にすると156万2000円になる。今は消費税が10%だから、税込価格と税抜きでは、額面から受け取られる印象が大幅に違う。
そして初代フィットWに10%の消費税を加算した想定税込価格は138万6000円だから、現行フィット1.3ホームの171万8200円は33万2200円高い。
この差額で現行フィット1.3ホームには、衝突被害軽減ブレーキ+運転支援機能のホンダセンシング、横滑り防止装置、サイド&カーテンエアバッグ、電動パーキングブレーキ、フルLEDヘッドライト、スマートキー、テレスコピックステアリング、上質な生地を使ったコンビシートなどが加わる。これら現行フィットにプラスされた装備を価格に換算すると合計約38万円だ。
したがって、消費税を10%換算した初代フィットWとの価格差になる33万2200円を上まわる。現行フィットには、初代と比べた価格差以上の装備が加わった。
このように今のクルマが割安になった理由は、標準装着される装備が、ユーザーの想定する金額より安く装着されているからだ。
ライバル同士の競争が激しいコンパクトカーや軽自動車では、フルモデルチェンジや改良の度に、装備を割安に追加してきた。
その結果、初代と現行フィットを比べると、装備と価格のバランスだけを見ても、現行型が割安になる。
燃費性能も向上した。初代フィットの10・15モード燃費は23km/Lだが、現行型はJC08モード燃費が22.8km/L、WLTCモード燃費は20.2km/Lだ。
直接比較は難しいが、初代フィットの10・15モード燃費をJC08モード燃費に換算すると、約20.7km/Lになる。
現行型は22.8km/Lだから、燃費数値が約10%向上した。このほか価格に換算できない走行安定性や乗り心地も、初代に比べると大幅に改善されている。
2代目フィットは2007年に発売された。1.3Lエンジンを搭載するLの価格は、5%の消費税を含んで134万4000円だ。今と同じ消費税10%とすれば140万8000円になる。
この時のLの価格は、初代を発売した時のWに比べて、消費税10%に換算して2万2000円の値上げにとどまった。
したがって、この時点の2代目フィットは、装備があまり充実していない。サイド&カーテンエアバッグ、ディスチャージヘッドランプ、スマートキーなどは、用意されているがすべてオプションだ。
横滑り防止装置はスポーティなRSのみの設定に限られた。現行型との比較内容も、初代モデルと同様で進化が少ない。
先代型の3代目フィットは、2013年に発売された。この時には13G・Lパッケージが消費税5%で146万1000円、消費税10%とすれば153万円に高まった。現行フィット1.3ホームの171万8200円に比べると、価格差が約19万円に縮まっている。
また2代目フィットLに比べると、消費税10%として12万円値上げされた。その代わり装備も上級化され、3代目フィット13G・Lパッケージには、横滑り防止装置、LEDヘッドライト、スマートキー、LEDドアミラーウインカーなどが標準装着された。
これらの装備の価格換算は約15万円に相当するから、3代目フィット13G・Lパッケージは、2代目のLに比べて実質的に値下げされ割安になっている。
それなら3代目フィット13G・Lパッケージを現行型の1.3ホームと比べたらどうなるか。3代目でオプションで選べた品目として、低速で作動する衝突被害軽減ブレーキ+サイド&カーテンエアバッグのあんしんパッケージが、6万円(消費税が10%なら6万3000円)で用意されていた。
このあんしんパッケージのセンサーは赤外線レーザーのみだ。現行型のフロントワイドビューカメラを使い、歩行者や自転車を検知できるタイプに比べると、性能は大幅に低い。現行型には電動パーキングブレーキも採用され、1.3ホームのシート表皮は上質なコンビシートになる。
これらの装備や内外装の違いと、消費税10%として約19万円の価格差を比べると、おおむねバランスは取れている。
ただし価格換算できない走行安定性、乗り心地、静粛性、前後シートの座り心地は、現行型になって大きく進化した。総合的に判断すれば現行型が買い得だ。
以上のように現行フィットを割高に感じさせる理由は、安全装備の充実と、消費税の内税表示および消費税率の上乗せだ。すべて消費税10%に換算すると、フィットの価格推移は以下のようになる。
●2001年6月 初代フィットW:138万6000円
●2007年10月 2代目フィットL:140万8000円
●2013年9月 3代目フィット13G・Lパッケージ:153万円
●2019年2月 4代目現行フィット1.3ホーム:171万8200円
※税抜き価格に現行の消費税10%加算した場合の比較
このように見ると、現行型が衝突被害軽減ブレーキやサイド&カーテンエアバッグなどを標準装着しているなら、価格は従来型よりも割安と判断できる。
1990年以降、この30年足らずの間では物価は上昇してもせいぜい8%近く(1.075、つまりプラス7.5%)しか上昇していないことを考えると価格の上昇は抑えられているのではないだろうか。
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