ベンツ新型Sクラスに「4WS」が!? かつて日本車のお家芸だった四輪操舵の現在

時代、メーカーによって異なる4WSの仕組み

 この1980年代に登場した機械式は、ホンダが3代目のプレリュードに採用していたものが代表的な仕様で、フロントのステアリングギアボックスからプロペラシャフトのように長いシャフトを介して操舵力を後方へと伝え、カム機構を利用して後輪を操舵していた。

 これは、ステアリングを切っていくとまず前輪と同じ向きに後輪が僅かに転舵し、その後同じ方向に切り増していくと後輪は一度中立に戻ってから、今度は前輪とは逆向きに転舵していくのだ。

 これは高速道路などの車線変更では舵角が少ないため、舵角が少ない領域は同位相として、コーナリングなどでは中立から逆位相、交差点やUターンなどの大舵角では大きく逆位相とするように機構を工夫していた。

 機械だけでこの動作を実現していたのは、ユニークではあるが、逆位相になるには一度、同位相に転舵されるため、特性をマイルドに抑える必要があった。

世界初の舵角応動型4WSを搭載した1987年4月登場の3代目プレリュード
世界初の舵角応動型4WSを搭載した1987年4月登場の3代目プレリュード
フロントの操舵力をシャフトでリアへと伝え、微舵域では同位相、舵角が大きくなると逆位相になる仕組みが採用された。図は1989年登場のアコード/アスコットに搭載された4WS(出典:ホンダ)
フロントの操舵力をシャフトでリアへと伝え、微舵域では同位相、舵角が大きくなると逆位相になる仕組みが採用された。図は1989年登場のアコード/アスコットに搭載された4WS(出典:ホンダ)

 当時ダイハツは軽自動車のミラTR₋XXに4WS搭載グレード、TR4 /TR-XXアヴァンツァート4WSを用意して、その高速安定性とハンドリング性能を誇った。

 またマツダカペラの4WSは機械式ながら速度感応型パワステのように、速度に応じて同位相と逆位相を使い分け、さらにはリアの舵角を調整する制御が組み込まれていた。

 一方で、HICASはその後、油圧アクチュエータシリンダーを1本に減らしたタイプのHICAS-II(S13シルビアに初搭載)、ステアリング舵角センサーで角速度を計測するSUPER HICAS(R32スカイラインに初搭載)、さらに油圧機構を排して電動アクチュエータを採用した電動SUPER HICAS(C34ローレルに初搭載)へと進化していった。

 しかし、セミトレーリングアームをベースに、サブフレームの取り付け部にあるマウントを工夫し、特定の方向のみ剛性を低下させてアクチュエータで押し引きするという、今考えれば(筆者は当時からそう思っていたが)かなり強引なメカニズムで構成した簡易的な4WSだった。

 しかも、このHICAS、センサーなど部品の劣化によりエラーが出ると、前輪の操舵に関係なく、後輪を操舵してしまう現象が起こるなど危険な症状を起こしたこともある。

 サーキットなどでスポーツドライビングを楽しむユーザーにとってはリアのトー角(クルマを上から見て、左右のタイヤが進行方向に対して内側、あるいは外側に向いている角度)が安定せず、挙動も不安定になってしまうことから、マウントを強化し、アクチュエータを殺すキャンセラーというパーツも当時は定番のアイテムだった。

 現在、フーガに採用されている4WAS(4輪アクティブステアリング)は、一般的な4WSの構造である、ハブキャリアのトーコントロールをアクチュエータによって制御するもので、フロントの操舵系をそのままリアにも装備したようになっているのが特徴だ。

 ちなみに現行V37スカイラインはV36時代に採用されていた4WASから、ドライバーのステアリング操作を電気信号に置き換えてタイヤを動かし、タイヤ角度とハンドル角度、操舵力を独立して制御するDAS(ダイレクト・アダプティブ・ステアリング)に変更している。

フーガに採用した4WSのシステム図。ステアリングの操舵角や速度から、リアの操舵角をECUが算出して制御する。この電子制御式の4WSでは、基本的な考えは各社とも同じ(出典:日産自動車)
フーガに採用した4WSのシステム図。ステアリングの操舵角や速度から、リアの操舵角をECUが算出して制御する。この電子制御式の4WSでは、基本的な考えは各社とも同じ(出典:日産自動車)

 トヨタが1980年代終わりに採用したアクティブ4WSは、電子制御と油圧を利用した先進的なもので、速度や前輪舵角などに応じて後輪の向きや舵角を制御すると共に、キャンセルスイッチやスポーツモードも設定されていた。

 1990年代には、コーナリング時に足回りにかかる横力を利用して、意図的にトー変化を起こさせることでリアステア効果を狙ったサスペンションも登場した。

 いすゞジェミニに採用されたニシボリック・サスペンションが代表的なもので、これはこれでエンジニアの技術力とこだわりを感じさせるものだったが、高速安定性の向上が著しい2000年以降のクルマにとっては、足回りの横剛性を損なう要因となるギミックは搭載することを避けたかったのだろう(もちろんプラットフォームやマルチリンクサスなどに開発コストを注いだことも大きい)。

 乗用車の世界では4WSは定着することなく、姿を消していく。その代わりにESC(VDCやDSCなどメーカーによって呼称は様々だが横滑り防止装置のこと)の登場と制御の高度化によって、クルマの動きは進化をみせる。

 以前はリアサスペンションを安定方向に大きく振らざるをえなかったエンジニアもESCという保険を得て、ある程度ハンドリング方向にジオメトリーを設定することが可能になったのだ。

 前述のマルチリンクサスによる走行中のトー変化などを踏まえて、基本的なシャーシ性能で旋回性を高めることに使えるようになったクルマは、4WSを搭載した前時代のクルマなど問題にならないくらいハンドリング性能が高まった。

 その代表的な例がマルチリンクサスペンションを導入して、一気にシャーシのパフォーマンスを高めた5代目のVWゴルフであろう。

 FFの強いアンダーステアを克服したゴルフVは、あらゆる要素のレベルの高さでハッチバックのベンチマークになったクルマだが、取り分けハンドリング性能は素晴らしく、ホットモデルのGTIは一気に人気を高めたものだ。

 ここで4WSは完全に過去の遺物となってしまうかに思われたのだが、10年ほど前から再びクルマに搭載されはじめるのである。

 それは4WSの制御技術の進化と、ボディサイズの拡大による小回り性やハンドリング性能の低下をカバーする必要性が生じてきたからだ。

次ページは : 走行性能向上のキーデバイスに再注目され始めた4WS

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