■スタイル抜群のQX50、ベンツAクラスと兄弟車のQ30は日本でも売れそうだ
インフィニティは、北米、中国、そして欧州市場で販売を展開している。そのうち、主戦場である北米市場では、現在、Q50(日本名:スカイライン)、Q60、QX50、QX60、QX80(アルマーダの兄弟車)の5車種のみ。
2000年頃にはG35(V35スカイライン)の大ヒットによって、特にセダンで勢いのあったインフィニティだが、世界的なセダン需要の縮小も影響し、かつてインフィニティのフラグシップを担っていたセダン「Q70」が、2019年末をもって販売が終了。いまでは寂しいラインナップとなってしまった。
このなかで、筆者が日本導入を熱望しているのがQX50だ。スタイルが良く、ドイツメーカーに対しても、まったく見劣りがしないデザインクオリティだ。
燃費の面で国産ハイブリッドに対抗できるパワートレインがないのが弱点だが、日本未導入のVCターボエンジンは、インフィニティのラグジュアリーSUVの魅力のひとつとなるだろう。
続いてインフィニティのグローバル本社がかつて香港にあったこともあり(前述のとおり、現在は横浜の日産グローバル本社へ移転)、中国市場はラインナップが手厚い。
セダンはQ50、Q50L(Q50のロングホイールベース版)、Q60、Q70L(日本のシーマと同じホイールベースに延長したもの)、そしてSUVはQX30、QX50、QX60、QX70、QX80と、合計で9車種だ。
なかでも、中国版のQ60には、最大出力211psの2リッター直4ターボのモデルが用意されている。北米では、300ps級と400ps級の2つのアウトプットを持つ3リッターV6ツインターボしかなく、燃費の面では目も当てられない状態だが、2リッタークラスの後輪駆動車であれば、フロントの軽量化と燃費改善にもなる。
これって、「日本人が長年欲しがっているシルビア」に最も近い一台ではないだろうか。
欧州市場(英国インフィニティ)では、Q30、Q50、Q60、Q70、QX30、QX50、QX60、QX70、QX80がラインアップされている。
ちなみにQ30は、メルセデスベンツのAクラス(1世代前のW176型)のプラットフォームを使い、インフィニティが化粧直しと足回りのチューニングをしたプレミアムコンパクトだ。プロポーションも悪くなく、日本でも売れそうな気がする。
だが、願わくば、アウディQ2サイズの、さらに小さなコンパクトSUVが欲しいところだ。
■いまは「余裕がない」 しかし今後に期待!!
日産の危機的状況が影響し、インフィニティブランドは、いままさに崖っぷちだ。
先日発表した新型QX60モノグラフや、今回登場したQX55は、インフィニティにとって、ブランド存続をかけた重要なモデルだ。これらのモデルがメインマーケットでヒットしなければ、インフィニティはブランド消滅も否定できない。
インフィニティは、かつては莫大な市場である北米をターゲットにして立ち上げられた高級車ブランドだ。インフィニティだけでなく、レクサスもアキュラも、1980年代のバブル景気を後押しに、世界市場を視野に入れ、立ち上げられた。
このなかで、レクサスだけは日本導入されたが、それはレクサス車の人気もさることながら、トヨタに体力があるから、ということも大いに関係している。ブランド構築には、膨大なコストと、長い期間がかかる。
インフィニティにしてもアキュラにしても、日本導入し、儲けが出るほどの戦略が立てられない状況だ。日産もホンダも、いまはそんな長期的な賭けに出られる体力はない。
前述したように、インフィニティはかつてセダンで隆盛を極めた。しかし、いまやインフィニティのFRセダンは、風前の灯火だ。
日産のFRプラットフォームはかなり古く、現行型フーガ(Y51)は2009年登場、現行スカイライン(V37)も2014年登場だ。商品力として時代遅れとなっていると言わざるを得ない。
車体骨格剛性強化やサスペンション変更など、改良はなされてはいるが、最新のジャーマン3(メルセデスベンツ、BMW、アウディ)やレクサスと戦うには、このプラットフォームでは、どうしても戦闘力に欠けてしまう。
しかし、SUVであれば、アルティマやマキシマで使用している、比較的新しいラージサイズFF向けのDプラットフォームを使うことができる。
しかもいま、SUVが世界的なブームだ。インフィニティがFRセダンではなく、SUVに力を入れている理由がここにある。
エンジン縦置きFRのレイアウトと比べて省スペースで済み、海外にある現地工場でも製造ができるため、価格も抑えられる。
このDプラットフォームを使うFFベースのSUVであれば、インフィニティも、プレミアムブランドとして恥ずかしくない最新の競争力を持ったプラットフォームを使うことができるのだ。
限りあるリソースを活用し、SUVラインアップを拡充して、インフィニティは生命維持を図っている、といえる。
また、中国市場向けのQ50、Q70を除いて、インフィニティのFRプラットフォーム車は日産栃木工場で生産されており、そこから世界中へ輸出しているため、為替変動の影響を受けやすい、といったリスクもある。
ブランド存続をかけ、まずは、メインマーケットである海外市場で、QX55をしっかりヒットさせること。そうして体力をつけたのちには、ぜひお膝元である日本市場への導入も検討してほしい。
日本では、メルセデスベンツやBMWよりもレクサスが売れている理由には、もちろんデザインや他の要素もあるだろうが、どこかで日本人が「日本メーカーのクルマがいい」という思いがあるからではないか、と筆者は考えている。そう考えれば、インフィニティにも勝算がなくはない。
そして、インフィニティが、プレミアムメーカーの王道であるFRセダンをこのままやり続けるのか、バッサリとあきらめて、横置きエンジンFFベースの4WD SUVの路線で攻めていくのかにも注目だ。
日産、そしてインフィニティがここからどんな戦略を見せてくれるのか、非常に楽しみだ。
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