■カーボンフレーム剥き出しのGT-R NISMOのRECARO社製バケットシート
GT-R NISMO 2024年モデルに新採用されたRECARO社シートは、前モデルに対して質量を一切増やすことなく、シートの横剛性を50%向上。
また人を支える腰や背中、肩の部分を最高の状態でサポートするために、シートのパッドを分割構造とした。
新型RECARO社製シートについて川口氏は、
「実はクルマを速く走らせる、安全に走らせるためには、シートが非常に重要です。例えばドライバーがブレーキを踏んだ時、シートの横剛性が高いとその分、ペダルを踏む力が強くなって、しっかりと減速することができます。
またシートの横剛性が高いと、特にコーナリング中の操作が人をしっかり支えることができます。無駄にドライバーが体を保たせようとする無駄な力が不要になって、よりハンドリング操作に集中できるんです。そうすることによってスムーズで適切なステアリング操作ができることになります」。
■スタンダード仕様のGT-R 2024年モデルの進化は?
GT-R 2024年モデルに関しても、NISMOと同様、水平基調のスタンスのいいデザインに変えている。
新しいデイタイミングライトによって新たな顔つきとなった。また形状の最適化により、フロントバンパー周辺に起こる風をしっかり制御することによって空気抵抗を削減。
ヘッドライト下のキャラクター、DTRL部分のエアガイドによって流れる風を整流。最後にカナードの形状によって、スタンダード仕様もタイヤのホイールハウス内の圧力を抜いてあげる効果によってダウンフォースを増している。
スタンダード仕様のリアデザインもバンパーサイドにエッジを立て、新しくしたフューザー形状も下から流れてくる風に対しても断面を最適化し、クルマの後ろに巻き込む風を非常に少なくすることによって空気抵抗を削減している。
もう1つの最大のトピックスは2017年以来、一度も変えていなかったリアウイングを今回初めて性能進化を目的に進化させたこと。
前モデルに対してウイングの長くし、幅を広くしている。これによってダウンフォースを大きくするとともに、ウイングの搭載位置も後ろに下げている。わかずかだがトランクリッドに働いていたクルマを持ち上げようとするわずかな負圧を削減することができたという。
スタンダード仕様は、こうした改良によってトータルで約10%ダウンフォースを強めることができたという。
■車外騒音規制により2022年モデルで生産終了と噂されていたが秘策で延命
国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(以下「UN-ECE/WP29」という)において策定された国際基準であるUNRegulation No.51-03Series(以下「R51-03」)という、50㎞/h走行時の騒音規制が2016年10月からフェーズ1、フェーズ2、フェーズ3と段階的に規制が強められていったのだが、いよいよ2022年9月1日から継続生産車にも順次導入されることになった。
この車外騒音規制がクリアできないのではないかと言われ、R35GT-Rは生産終了となると、囁かれていた。
日産自動車商品企画部ブランドアンバサダーの田村宏志氏は、まず「GT-R 2022年モデルを発売した後、もっと作れないかと、多くのお叱りに近い言葉をいただきました。そこで開発チームにもっと作ろうと指示を出しました(日本仕様のみ)」。
この車外騒音規制は、車検時にも行われる近接排気騒音をはじめ、加速走行騒音、マフラーの近接排気音、タイヤ走行音などとても厳しい規制。
この車外騒音規制をクリアするためには、容量を3倍にしたマフラーによってトランクスペースを半分にし、255のフロントタイヤを履かなければクリアできないことがわかったそうだ。
むろんそれではユーザーは納得してくれないと判断。そこで田村氏は川口隆志氏をはじめとする開発チームに「1馬力も下げず、タイヤのそのまま、トランク容量も変えないでGT-Rを継続させるよう指示したという。
その秘策は、新消音室を持つ新構造マフラーを新開発することで解決。なんと、ヒントにしたのは航空機のジェットエンジン。動力性能を犠牲にすることなく、車外騒音規制に対応。さらに迫力のある新たなGT-Rサウンドを実現したからというから驚きだ。
ジェットエンジンの騒音低減技術を応用したこの技術のハイライトは、まず新消音室。2022年モデルの消音室は図の通り、小型だったが、2024年モデルではY字型のマフラー分岐部分に大型の新型消音室が設けられているのがわかるだろうか。この密閉された消音室に低音騒音を導くことで低減。
そして、ジェットサウンドジェネレータと呼ばれるY字型の部分は、排気抵抗はキープしつつ、2024年モデルの魅力的なサウンド=ジェットサウンドを奏でるという、一挙両得の源になっている。
具体的には、ジェットエンジンのタービンブレードを参考にした小さな渦を派生させる排気管形状となっており、排気ガスの気流の渦を細かく分割させ、そのエネルギーを低音域から高音域までまんべんなく分散させることができたという。
一般的に排気音を下げようとすると排気管を長くしたり、あるいはマフラー容量を大きくして音を静かにするが、これをやってしまうと排気ガスの流れを悪くしてしまい、出力が落ちてしまう。
また単純に排気音のボリュームを下げてしまうと、スポーツカーならではの加速時のエキゾーストノートを失いかねないので、それがGT-Rにとって課題だったという。
車外騒音法規対応、動力性能の維持、魅力的な音、この3つをクリアするために新構造のマフラーを開発。
GT-R 2024年モデルの新構造マフラーは排気管の途中に分岐を行っており、分岐の目的は左側の赤い方向の先にある赤いボックスは密閉された空間になっており、そこは消音室になっている。この消音室をデゾネーターを呼ぶそうだが、この消音室を設定することが大きな目的だったという。
上のほうからエンジンの音が伝わってきて、分岐の右にも左にも音は伝わるが、左に伝わった音はこの消音器によって低音域のみピンポイントで音を消音。これによって非常に厳しい車外騒音規制をクリアできたという。
一方で排気ガスは上から流れてきても右側には流れない。左側は密閉されているので排気ガスは右側にしか流れないという。
こうした対策によって今までと変わらず排気ガスの流れは一切変えることなく動力性能を犠牲にすることなく達成できたという。
ジェットサウンドジェネレータに関して川口氏は、
「この分岐のところに排気管をうまく工夫して新しいジェットサウンドを構築しました。ジャンボジェット機のような大きなジェットエンジンは10万馬力もありますが、600馬力のGT-R NISMOに比べ160倍も出力があるのにもかかわらず、相対的にそんなにうるさくない。それはなぜか? 我々エンジニアが一生懸命分析しました。
ジェットエンジンのタービン回りの風の流れ、圧力分布をみると実はそんなに大きな渦が発生していませんでした、小さな渦がいくつも発生していることがわかりました。
低音域から高音域までいろんな音に分散させていました。音というエネルギーをきれいに分散させることによって、音のボリュームを下げていることがわかりました。
それらを我々は参考にして分岐構造、排管の形状を工夫し、中に流れる排気ガスの渦と小さな渦をいくつも発生させることによって、特に加速して高回転になればなるほど、迫力のあるジェットサウンドを構築しました」。
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