今回は、東京から行きやすい温泉地でゆるりとした時間を1泊で過ごす「湯とメシの旅」のご提案。舞台は豊かな自然に囲まれた栃木県の名湯「塩原温泉」。街中が温泉尽くし! 泉質や色の異なる湯に浸かれば、グルメも温泉を感じるものが多数あり。BCの姉妹メディア『おとなの週末』のライターによるレポートをお届けする。
撮影/西崎進也、取材/本郷明美
■浸かって、飲んで、丸ごといただく「温泉力」
ああ、この湯に浸かりたい――。ひと目見て、そう思った。さえぎるものなく眺められる山々、やや緑がかった乳白色の湯。浸かれば「はぁ」と思わず声が出る。
熱めの湯が疲れた体をなだめてくれるよう。それにしても神秘的な湯の色だ。名を「五色の湯」という。
「お湯の色は毎日同じことがないんです。季節によって違いますし、晴れるとエメラルドグリーンや乳白色、雨が降ると灰色だったり」と『大出館』の若女将・山本順子さん。「どうぞ飲んでみてください。胃腸にいいんですよ」。
口に含めば、硫黄の匂い、ミネラル分を感じる。源泉で炊いた粥もいただく。米の甘みとミネラル分が溶け合い、しみじみとおいしい。お腹が温まり、体の隅々に温泉が沁みわたる。体の外から内から、温泉力、まるっといただきました。
■『塩原温泉 大出館』
[住所]栃木県那須塩原市湯本塩原102
[電話]0287-32-2438
[営業時間]日帰り温泉10時~16時(受付14時まで)※都合により休みあり。電話にて要確認
[交通]JR東北新幹線ほか那須塩原駅からバス約60分(宿泊客のみ送迎あり・要予約)、塩原温泉ターミナルから車で約15分
■温泉卵に湯上りビール、ぷはっの幸せ
塩原温泉は1200年以上の歴史を持ち、約150の源泉があるという。街じゅう「湯だらけ」で手の温泉『指湯』まである。『湯っ歩の里』は、足湯の回廊がある施設。
湯の底に敷き詰められた石の種類によって、「やんわりほんわか ここちよい道」「ふみふみ ふみしめる道」などがあり、なんだか楽しい。「ぐりぐりせめる道」を歩けば、痛いぞ。とても痛い。
けれど、だんだんイタ気持ちよくなり、体もほっかほっかだ。締めは、敷地内にある「飲泉堂」へ。ここでもぐびっと「飲泉」。
飲泉と運動のおかげかお腹が鳴った。というわけで、温泉街の『遊蕎』へ。生ゆばを蕎麦に絡めて食べる「ゆばとろそば」は、十割蕎麦のふくよかな風味が、ゆばの食感とよく合って美味だった。
翌日は、新湯地区へ向かう。岩肌からは今も水蒸気が吹き出し、硫黄臭が漂う、これぞ秘湯の風情だ。その中にぽつんと共同浴場『中の湯』がある。脱衣場とこぢんまりとした湯船の素朴な浴場。
何人もの湯治客が浸かってきたに違いない。なめらかな乳白色の湯が心地よかった。
『中の湯』近くの『湯荘白樺』では「温泉卵」を発見。勢いよく噴き出す、あの源泉の熱で茹で上げられたという。それはいただきたい。
買うと、ご主人が塩と醤油、器を出してくれた。むむ、ここはビールがほしい。缶ビールも購入し、コツンと殻を割った。
とろとろ白身の中から現れる黄身は美しく、味がとても濃い。あまりのおいしさに、「これは普通の卵ですか?」と聞いてしまった。「地元の卵を届けてもらってます」とご主人。
地元産の新鮮な卵に温泉の力が加わり、こんなにもおいしくなるのだ。
温泉に浸かって、温泉卵を食べ、ビールをぷはっ。なんという幸せ。温泉街に戻ると、「温泉で蒸した鰻」なるものを発見。その店『旭亭』は、聞けば65年の歴史を持つという。
「その前は、芸者置屋を営んでいたんです」と店の方が教えてくれる。温泉街に、毎晩華やかな宴会があった時代だろう。
温泉で蒸してから焼き上げるうなぎはふわっとしすぎず、絶妙な食感。代々継ぎ足しているという、コクのあるタレがうなぎとご飯によく絡む。
大地の力が多彩な温泉を生む、自然の不思議。私たちは、その不思議から、こんなに幸せをいただいている。
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