ホンダインスパイア(4代目)
技術的トピックス:自動ブレーキ世界初搭載
販売期間:2003~2007年
クルマの新技術でいまいちばん熱い開発競争が繰り広げられているのが自動運転関連の領域。遠い未来の到達点は完全自動運転だが、実際に売られているクルマでは衝突被害軽減ブレーキ(AEBS)が主戦場だ。
この衝突被害軽減ブレーキ、じつはホンダが圧倒的に早く市場投入しながら、経営判断の誤りによって先行者メリットを活かせなかった黒歴史がある。
ホンダは2003年、実に今から16年も前に衝突被害軽減ブレーキ(ホンダにおける名称はCMBS:Collision Mitigation Brake System)を装備した4代目インスパイアを発売している。
もちろん世界初。当時の国交省の指針で自動停止までは行わなかったものの、前方障害物を検知して「クルマが自動的にブレーキをかける」という装備は、まさに自動運転へ向けた第一歩ともいえる画期的成果だった。
さらに、このインスパイアにはすでにレーンキープアシスト(LKAS)も装備されていて、車線逸脱時には警告とともにクルマを車線内に引き戻す機能まで付いている。2003年発売のクルマとしては、先進安全装備(ADAS)に関しては圧倒的に進んでいたのだ。
ところが、である。これは当時のホンダ経営陣の判断の誤りとしか言いようがないのだが、この先進装備はインスパイアやレジェンドなど上級車のオプション装備にとどまり、ホンダ車全体に普及することなく時を過ごしてしまうのだ(LKASは2008年発売の次期型インスパイアでは廃止されてしまう)。
おそらく、初期のADASは費用対効果という点でユーザーにはあまり歓迎されない装備で、ビジネス上のメリットが薄かったためだと思われるが、ホンダのブランドイメージ形成にとっては惜しいチャンスを逸したと言わざるを得ない。
この、圧倒的に進んでいたインスパイアの安全装備をブランド全体に普及させれば、スバルやボルボのように「安全装備で先進的なメーカー」というブランドイメージを築くことも、あるいは可能だったのではないか……。
インスパイアは登場するのが早すぎたクルマかもしれないが、それが時代の転換点を的確にとらえていることに経営陣が気づかなかったのが残念だ。
ホンダプレリュード(5代目)
技術的トピックス:ATTS
販売期間:1996~2001年
ランエボのAYCで有名になったアクティブ・ヨー・コントロール(あるいはトルクベクタリング)は、最近の高性能車では流行のアイテム。電子制御LDSや4輪操舵とともに、プレミアムスポーツでは必須の装備となりつつある。
この技術の実用化に重要な役割を担った日本人技術者が二人いて、ひとりは日産からホンダへ移籍してSH-AWDを開発した芝端康二さん。もうひとりは三菱でAYCを開発した澤瀬薫さん。どちらも、工学博士号をお持ちの優秀なエンジニアだ。
ただ、お二人とも量産車にこの技術を落とし込むのには大変苦労されている。
量産車で世界ではじめてアクティブ・ヨー・コントロール技術を市販化したのは、芝端さんが開発した1996年のプレリュード。ATTSと名付けられた差動メカニズムが左右前輪にトルク差を生じさせ、そのモーメントで旋回を助ける仕組みだった。
ただし、前輪が操舵と駆動の両方を受け持つFF車では、パワーオンでタイヤのグリップが飽和しがちで、この技術を応用しても効果は限定的。当時のホンダには、FRはもちろんパワフルな4WDもなかったから、後にレジェンドでSH-AWDが登場するまで、ダイレクトヨーコントロールの効果はあまり評価されなかった。
いっぽう、澤瀬さんのAYCも、ランエボで花開いたものの、三菱の経営不振によりそれが絶版となると応用できるクルマがなくなってしまう。
こちらは電動化に活路を見出し、アウトランダーPHEVで復活を遂げるのだが、「パワーで曲がる」というその概念自体が本来高性能車向きで、その類のクルマを持っていないメーカーでは有効に活用できないというジレンマがある。
ただ、クルマの電動化が進めば、雪国での生活4WDにこの機能は活かせる可能性大。制御理論とプログラムの蓄積が大きいホンダと三菱には、そこで優位性を発揮してもらいたいものであります。
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