モデルチェンジサイクルの長期化
新車効果の衰えには、フルモデルチェンジのサイクルが長くなったことも影響している。1990年頃までは、4~5年ごとにフルモデルチェンジが実施され、その間にマイナーチェンジも行われた。
定期的に車両のコンセプトやデザインが刷新されたから新鮮味を保てたが、今はフルモデルチェンジのサイクルが全般的に伸びている。
例えばヴィッツが発売されたのは2010年、アクアは2011年だから、8年以上にわたりフルモデルチェンジを受けていない。エスティマはさらに古く2006年の登場で、現行型で生産を終える可能性が高い。
今の自動車メーカーは、環境性能の向上や自動運転の対応など、開発費用の負担が増えた。そのために車両開発が影響を受けて、フルモデルチェンジが長期化している。
クルマのデザインが大きく変化する時期を過ぎて、安定期に入ったこともある。40~50年前のように、フルモデルチェンジの度にクルマの外観が見違えるほどカッコよくなることはない。
頻繁にフルモデルチェンジを行う必要はなく、安全装備の充実などはマイナーチェンジで対応するようになった。
海外偏重型となった弊害
日本メーカーの大半が、世界生産台数の80%以上を海外で売るようになった事情もある。1973年に発生したオイルショックをきっかけに、日本車は「低燃費で低価格、しかも壊れない」ことを理由に海外でも売れ行きを伸ばしたが、1990年頃までは国内/海外の販売比率は各50%程度だった。
このバランスはちょうどよく、日本で使いやすいサイズながら、海外に対応して走行性能を高めたクルマも登場している。日産の初代プリメーラなどは、国内/海外のニーズをバランスよく満たすことで優れた商品に仕上がった。
しかしこの後、各メーカーとも次第に海外の販売比率が高まり、2000年頃には70%、2010年には80%に達する。
クルマのデザインや機能も、日本のユーザーから離れていった。日本はメーカーにとって20%以下の従属的な市場になり、車種の削減やフルモデルチェンジサイクルの長期化が一層進んだ。
新車効果が長続きしない背景には、日本メーカーの商品開発が海外中心になったことも挙げられる。
人気が長続きするのは実用的なクルマだけ
そのいっぽうで、逆説的な表現になるが、一部の限られた車種では新車効果が延々と続いている。
例えばN-BOXは、フルモデルチェンジから時間を経過しても売れ行きがほとんど下がらない。タントもフルモデルチェンジを受ける直前の2019年上半期(1~6月)まで、国内販売の総合3位だった。1位はN-BOX、2位はスペーシアで、3位のタントを含めた軽自動車3車は、常に販売ランキングの上位に入る。
小型/普通車では、ノート、アクア、シエンタといった車種が販売ランキング上位の常連だから、軽自動車を含めて、好調に売れる車種はいずれも実用指向が強い。
これらの車種は、スープラのようなスポーツカーとは異なり、新型が登場しても売れ行きを一気に伸ばすことはない。その代わりにユーザーは、車検満了の時期になると必ず乗り替える。従って長期間にわたり、地味に淡々と売れ続けるのだ。
そして実用指向の車種は、日常生活のツールだから、調理器具などと同じく使い勝手が変化するとユーザーは不便を感じてしまう。そこで同じ車種を乗り続けてくれる。
メーカーもこの気持ちを知っているから、N-BOX、スペーシア、タントなどは、フルモデルチェンジを行ってもデザインや基本的な機能は変えない。使い勝手を妨げずに、走行安定性、乗り心地、内外装の質、安全装備などは着実に進化させる。
今はこのような実用指向の車種が、常に販売ランキングの上位を独占している。購買意欲を沸き立たせる趣味性の強いクルマが減り、実用指向の車種だけが残った。クルマ好きとしては、ちょっと寂しい状態になっている。
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