最近のクルマは昔に比べて精度が上がっているので慣らし運転は必要ない、という意見もあれば、工業製品としてバリなどが取れるまでは慣らし運転は必要という見解もある。
ではタイヤはどうなのだろうか? 新車時、タイヤを新品に交換した時でもタイヤに慣らし運転が必要かどうかなど意識している人はほとんどいない(と思う)。
タイヤについて知識が豊富で、いろいろな経験を持っている斎藤聡氏に、タイヤの慣らし運転は必要なのか? 必要ならばどのように実践し、どのくらいの距離、期間やる必要があるのかをレクチャーしてもらう。
文:斎藤聡/写真:ベストカー編集部
市販車用タイヤも皮むきが必要
タイヤの慣らしはやったほうがいいと思います。タイヤは最終工程で加硫を行います。これは硫黄と熱を加えることでゴム分子を化学反応させる工程です。これによってゴムは飛躍的に弾性限界が高く…つまり耐久性が上がります。これによって数万㎞走ることのできるタイヤが出来上がるわけです。
この工程ではモールドというお釜のような機械にタイヤを入れ、高温(150~200℃くらい)で数十分熱せられます。この熱によって硫黄に反応したゴム分子同士が結びつきを増し(架橋)、弾性が強くなるのです。
この工程で、加硫と同時にタイヤの内側から風船のようなものを膨らませて圧力をかけ、タイヤのトレッド面をモールドに押し付けます。モールドのトレッド部にはトレッドパターンが描かれており、ここでタイヤにトレッドパターンが刻まれるわけです。
この時、加硫を終え製品となったタイヤは薄い皮膜に覆われています。また、この工程でタイヤとモールドの間の空気抜きからはみ出したゴムがひげのようにはみ出していたり、小さな突起を作っています。
目安としてこれが消えるくらいまでの間は、急加速や急減速を控え、比較的丁寧に走ることをお薦めします。
スタッドレスタイヤだと、この薄皮があるとタイヤ本来の性能が出ないので、舗装路でひと皮むいておいたほうが氷雪上でのグリップ性能がいいようです。目安としては100kmくらい舗装路を走れば十分だと思います。
サマータイヤでも、ウエットグリップには差があります。皮むきが終わるとウエット路面での接地感が高くなります。またタイヤメーカーによってはひと皮むけた途端乗り心地がマイルドになったり、ノイズが小さくなったりします。
トレッドの剥離の防止
もうひとつ……というか、タイヤにとってはこちらのほうが重要な慣らしの理由になります。
加硫によって弾性限界が飛躍的に高くなり、タイヤはタイヤとしての性能を得ることができるわけですが、これはコンパウンドに起こる化学反応です。
タイヤの製造工程を見ると、カーカスを作りこれにコンパウンドを巻き付けて作られます。そうしてできたタイヤ(の一歩手前のもの)をモールドに入れて加硫するわけです。
ゴムの弾性限界が高くなるのと同時に、高熱と内側からの圧力によって、コンパウンドとカーカスも強く貼り付けられるわけです。
ところがコンパウンドとカーカスの結びつきは、これだけでは十分とは言えないのです。
特に新品タイヤでいきなり限界走行を始めると、セパレーション(トレッドの剥離)が起こりやすいのです。
普段街中や高速道路を走って発生する程度の熱で十分ですから、熱を徐々にタイヤに入れることで、コンパウンドとカーカスを馴染ませることでき、セパレーションの発生を抑えられるのです。
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