DAT化、そしてマルチパスウェイ――トヨタが諦めないもの
もうひとつの挑戦が、水素エンジンとの組み合わせとして初となる「DAT化」だ。DATはDirect Automatic Transmissionの略。トヨタは「MT(マニュアル)と同等に戦えるAT」を目指しており、シフト操作を意識せず運転に集中できることで、モータースポーツの裾野をより広い層へ開いていく狙いがある。
今回のST-Qクラスには、#32 水素エンジンGRカローラに加え、リアミッドシップ化に挑む#28 GR Yaris M-Concept、そして低炭素ガソリンE20の実証をGR86から継承し、DAT制御の進化や市販化に向けたコンポーネント開発を担う#104 GR Yaris DAT Racing Conceptも出走する。トヨタはS耐を、「モータースポーツを起点としたもっといいクルマづくり」「カーボンニュートラル技術の実証」「仲間づくり」「モータースポーツ文化づくり」の場として活用している。
水素は、もはや乗用車だけの話ではない。FC大型トラック、FC小型トラック、FCバス、燃料電池タクシー――社会実装の裾野は着実に広がっている。自工会が掲げる「水素大動脈構想」では、今後10年で大型水素トラック1500台相当、水素ステーション30基の増設、水素価格1000円/kgを基準に、官民連携で幹線輸送への水素利用拡大を目指している。BEVだけがカーボンニュートラルへの道ではない。 トヨタの「マルチパスウェイ」戦略の本気が、富士のコースの上に凝縮されている。
誤解のないように重ねて書いておく。これは、「水素エンジン搭載の市販車がもうすぐ出る」という話ではない。技術はまだ完成していないし、課題も山積みだ。あくまで将来の市販車への応用を目指した、開発途上の真剣勝負である。
だが、未完成だからこそ、富士24時間レースで鍛える意味がある。極限のサーキットでクルマを痛めつけ、課題をあぶり出し、次の技術へつなぐ。エンジンの未来を、トヨタは進み続ける。モリゾウがその理由を、ハンドルを握りながら体現する。
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