市街地レースは数々あれど、市街地ナイトレースはシンガポールがパイオニアだ。今週末はマリーナベイ市街地コースでシンガポールGPが行われる。毎回大荒れのこのコースでマックスはチャンピオンを決めてしまうのか? さて、その波乱のコース、シンガポールを元F1メカニックの津川哲夫氏が解説する。
文/津川哲夫
写真/Redbull,Mercedes,Ferrari
シンガポールグランプリは照明灯の下で行われるナイトレース
F1グランプリカレンダーのレギュラーとなり、近代都市の夜景の中でストリートレースを開催しているシンガポール。高層建築の立ち並ぶ近代都市でその夜景に包まれながら、一般道路を封鎖してブロードライトに照らされた市街地をF1が全開で駆け抜けるのだ。地下鉄やバスや鉄道で気軽にこのサーキットに足を伸ばし、夜の壮大なモータースポーツイベントに酔いしれることができる。
市街地レースは数あれど、市街地ナイトレースを始めたのはここシンガポールがパイオニアだ。同じ市街地レースながらモナコとは一線を画する特殊な舞台を造り出すマリーナベイ市街地コースは、レースというエンターテイメントを都会の夜に融合させて、見事な雰囲気を醸し出している。いわゆるF1ファンだけではなく、夏のページェントとして多くの人々を引き寄せているのだ。
ホテル、レストラン、バー、ショッピングなどを中心に、街の経済を活性化させる。レースウィークにはトップアーティスト達のコンサートやショーが目白押しで、レースを含む週末を盛り上げる。これが近代F1ストリートレーシングの真骨頂だ。
さらにストリートF1グランプリはその都市の認知度を効果的に向上させる。実際に130カ国をこえる国々で放送され、一瞬にしてその都市の名前が世界中に響き渡るのだから、その宣伝効果は極めて高い。F1ストリートレースは都市の認知度を高め、後々の都市経済を向上させるのだ。
フォーミュラEが東京開催を検討中。ついに市街地レースを日本で見ることができるのか
先日小池百合子東京都知事がフォーミュラEの東京開催を検討中という話が世間を騒がせた。もちろんフォーミュラEはEV(電気自動車)であり、現在流行のSDGsに関連して「東京も取り組んでいます」というジェスチャーの現れなのだろう、もしも実現できるなら嬉しいことだ。
しかしF1ファンとしてはもしもフォーミュラEが開催可能ならば、より経済効果の高いF1も開催できないことはないのでは……と考えてしまう。
ストリートレースの利点は、鈴鹿や富士のような常設のサーキットではないので、レース後に通常に戻すのがたやすく、後々に負の遺産的な建築物を残さない点だ。もちろんSDGsを前面に押し出せば、ネガティブな面を叩かれるわけだが、F1に使う燃料は環境にやさしいといわれるバイオ燃料の「E10」であり、さらに26年以降には人工・バイオ燃料への移行が決まっている。エンジンの燃焼効率は極めて高く、人工・バイオ燃料の使用とERS(エナジー回生システム)の強化によるハイブリッド化をより強く進めるので、CO2の排出量等でフォーミュラEには及ばなくも十分にクリーンなエンターテイメントになるはずだ。
もちろん日本の行政と一般国民のメンタリティーを考えればストリートF1の開催はなかなか難しい。しかし、駅伝でサポートカー(箱根駅伝ではハイブリッドカーが使われていたが)やオートバイを走らせていることを思えば、それほど大きな違いがあるとは思えないのだが……。やはりモータースポーツの土壌が海外とは違うので、まずはその理解のハードルを越えなければ前には進めないだろう。
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