「初日からプッシュし、ポディウムを狙います」。いよいよ開幕まであと半月となったラリージャパン。日本人最上位の最有力候補は、もちろんトヨタのバックアップを受けてヤリスを駆る勝田貴元選手だ。トップカテゴリーを走ってまだ3年ながら、飛躍的な成長を遂げた勝田選手。日本人がWRCのトップドライバーになるのは無理と言われていたが、見事”定説“を覆し、今季大活躍のままラリージャパンへ挑む。165cm、63kgと小柄な「タカ」がてっぺんを目指す!! 勝田貴元選手のラリージャパン直前インタビューをお届けします。
聞き手/ベストカー編集部 PHOTO/Red Bull、TOYOTA
■「もっとプッシュできたのに!」
ベストカーWeb編集部(以下、編集部)/勝田選手が日本のファンに一番伝えたいこと、WRCの魅力を教えてください
勝田貴元選手(以下、勝田)/WRCはいい意味での違和感が大きな魅力だと思います。想像してみてください。SSでは一般道がクローズドになり、皆さんが普段ドライブするようなワインディングや林道を異次元のスピードで駆け抜けていくのですから。
それと、リエゾン区間では、普段買い物や通勤で使う道をモンスターマシンが、交通法規を守って走る姿も違和感があって面白いんじゃないかと思います。少し深掘りすると、ドライバーひとりひとりに個性があって、ドライビングポジションも皆違うし、SSでは同じコーナーを攻めてもライン取りが違うので、そういう見方も面白いかもしれません。
編集部/今シーズンは大きな成長を遂げられたと思いますが、何が速さと安定感を生む要因になったのでしょうか?
勝田/トップカテゴリーにフル参戦して2年目になりますが、今季はそれぞれのラリーにしっかりとアプローチできていることが大きいと思います。それはマシンのセッティングやペースノート作りなどいろいろですが、準備できていることが、精神面での安定を生んでいると思います。
もうひとつは、チームの支えが大きいですね。タイムが出ない時やクラッシュした時など、焦りが出てしまいますが、そこをしっかりとサポートしてくれていることも要因だと思います。
また、今季から「TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team Next Generation」からの参戦となり、マニュファクチャラーズポイントを獲れるようになったことも理由だと思います。自分が頑張ればライバルチームのポイントを減らすことができ、トヨタのトップチームを助けることができるので、最後までしっかりと走るんだという気持ちになっています。
ただ、安定感のある走りがボクのゴールではありません。その先にボクのなかでは大きな目標があって、チャンピオンになるために、今やれることをやるということだと思います。それと、安定感には、我慢が必要で、今季も「もっとプッシュできたのに!」という思いは何度もあります。でも、この我慢も、きっと将来生きてくると思っています。
編集部/今回のラリージャパンのコースの印象はどんなものでしょうか?
勝田/ボクは全日本ラリーの経験が少なく、実際にレッキ(事前の試走)をしてみないとなんとも言えませんが、2019年のセントラルラリーの印象から言えば、コースはテクニカルで低速コーナーが多いといった印象です。
欧州では、インカットできるコースも多いのですが、日本はそれほど多くないようですし、路面の下地がしっかりしているので泥がかき出され、滑りやすくなってしまうという心配もそれほど多くない気がします。
編集部/日本のコースは、ガードレールが多い気がしますが、ドライバーにとって気になりませんか?
勝田/きっとガードレールがあると道が狭く感じるというドライバーもいると思います。ただ、ガードレールがあると目の錯覚が起こりにくく、カーブが思ったよりもきつかったというようなことが少ないという利点があります。日本はきついコーナーにはカーブミラーや標識があるので、どちらかといえば親切な道だと思います。
編集部/お父さんは全日本ラリー選手権で9度のチャンピオンに輝く勝田範彦さんですが、影響はありますか?
勝田/父とは2015年だったと思いますが、冬の北海道にラリー合宿に行ったことがあります。初めて4WDのラリー車に乗って教わったのですが、まったく父の言うことが理解できませんでした。
カートで育ったボクは、フロントが駆動するイメージがつかめなかったんです。例えば4WDならリアの駆動が抜けた時には、「カウンター当てて、アクセルを踏んでいけ」みたいなことを教わるんですが、まったくできませんでした。今は当たり前のことなんですけど、そんな思い出があります。
父はあまり細かなことを言いませんでしたし、指導ということもありませんでした。そのぶん伸び伸びできて、(ラリーチャレンジプログラムで)フィンランドに行ってから吸収できたのかもしれません。これは、カッレ(ロバンペラ)からも聞いたんですけど、彼のお父さん、ハリ(ロバンペラ=WRC1勝)も細かなことは言わなかったそうです。
編集部/ラリージャパンには、どんな走りをイメージされているのでしょうか? 目標を教えてください
勝田/ラリージャパンは今季の最終戦となり、(マニュファクチャラーズ)チャンピオン争いも決着していると思います。先ほど安定感という話がでましたが、ラリージャパンでは自分のパフォーマンスを出し切って、初日からプッシュしていきます。
もちろん地元ということもありますが、来年につながるいい走りをして表彰台を狙いたいです。これは、ほかのドライバーたちもきっと同じ気持ちで、失うものがないというか、リスクやポイントを考えずに来年に向けてのパフォーマンスを見せてくると思います。そのぶん見せ場が多いかもしれませんね。
勝田貴元(かつた・たかもと) 1993年3月17日、愛知県生まれ。11歳でカートを始め、2012年よりトムスでF3に参戦。初めてのラリーは2012年の新城ラリーで2015年トヨタのラリーチャレンジプログラムに選出、2016年からトミ・マキネン・レーシングから欧州のラリーに参戦。2018年WRC2クラスで初優勝し、2019年のドイツにてWRカー初参戦。2020年のモンツァでSSベストをマークするなど成長を続け、サファリラリーでは2021年2位、2022年3位と2年連続表彰台を獲得した。父の勝田範彦は全日本ラリー選手権のチャンピオン、祖父の勝田照夫は日本人で初めてRACラリーに参戦したレジェンドだ。愛称はタカ。
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