WEC(世界耐久選手権)のトヨタGAZOOレーシングチーム代表を務める小林可夢偉氏。2023年の動向が気になっていたが続投が決まったと本人から連絡を受けた。
いま小林可夢偉はなにに悩み、なにをワクワクしているのだろうか。ジャーナリスト段氏が迫る。
文/段純恵、写真/TOYOTA GAZOO Racing
■チーム代表1年目を振り返って
――小林さん、WEC(世界耐久選手権)のトヨタGAZOO レーシングのチーム代表2年目続投が発表されました。
「僕に正式な通達が来る前に正式発表になったので、オレ、やるんや(笑)、自動更新になってた、ってのがホンネです」
――1年目を振り返っていかがですか。
「正直、その場その場でなんとかやりきった1年目だったかな。会社の構造だったり人間関係だったり、知らない部分がたくさんあった。
これまで組織の中で働いたことがなかったから、『会社ってこうなんや』って感じ。すごく良いアイデアがあっても、いま言うてすぐ形になるわけじゃない。僕、あんまり弱音は吐きたくないんですよ。でも、素直にいうと、不安な部分もやっぱりありました」
――どんな不安だったんですか。
「代表とドライバーの切り替えがうまく出来るようになるまで、多少なりとも不安はありました。クルマがハマれば別に問題ないんです。でもクルマの調子が悪い時にどう盛り返すかがやっぱり難しくて、パフォーマンスを100%に出来なかったなぁとか。
シーズン後半、うまく切り替えができるようになってきて思ったのは、代表の仕事の形さえちゃんと作っておけば、現場で自分がオペレーションすることはだいぶ少なくなるんじゃないかなと。これと思う人を各場所に配置し、もうちょいサイクルが回れば、僕がその場その場で判断しなくてもよくなると思うんです」
――例えばどんな場でしょうか。
「スポンサー対応だったりね。もちろんある程度は僕が行かないといけない。
でもスポンサーもパートナー企業も含めて、家庭的に戦えるチームっていう雰囲気、お金を出すスポンサーだからってすごい大層な挨拶ばかりの接待ではなく、カジュアルな話もしながら一緒にレースを戦う、一緒にレースに勝つという雰囲気を作る、そのための判断とかね」
――家庭的な雰囲気とは?
「チームオーナーでもある豊田章男社長に一番最初に言われたことで、『家庭的なチームでありながらプロフェッショナルなチームにする』という目標があるんです。
プロフェッショナルっていうのはもちろん結果を残すこと。ただプロフェッショナルに徹すると、結果を残すため、冷たいというか組織的にならざるを得ない部分が想像されると思う。
そこで相手の言葉に耳を傾けたり、相手が本当に良くなるように助言したり、そういうコミュニケーションをとって、相手に寄り添いながらチームとして強くなる。それが『家庭的』の部分じゃないかなぁと思ってます」
――その両立ってなかなか難しそうですね。
「難しいことだらけですよ。なにか話を取りまとめるにしても、豊田社長だったらどう考えるだろうと意識しながら判断してます」
――社長の意を汲みながら判断を進めると?
「早く決断しなアカン時、社長も忙しいからすぐ返事できない時もある。そういう時はある程度、社長ならこう考えてこうされるんじゃないかな、と考えながら進めていく感じです。
その上で『こういうふうに進めてます』と僕から社長に連絡すると、『それでぜんぜん大丈夫。ありがとう』っていうようなコミュニケーションはできたりしてる。
代表をすることになってからこの一年、過去に章男社長が発してきた意見やコメントをめちゃめちゃ読みました。もう見まくって読みまくってるうちに、なんとなく社長やったらこうするかなぁって浮かんでくるようになったんです。もちろん完璧ではないでしょうけどね」
――それがハズれはしなかったと。
「ハズれたかハズれてないかは、僕にはわかんないです。
ただ、代表の話をもらった時、なんで僕をそのポジションに? って考えたんだけど、僕ならやってくるれるだろうと社長に期待していただいたのなら、やるやらないではなく、その期待に応える覚悟、自分にその覚悟があるかどうかっていうところが、僕には一番重要だったんです」
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