「アスリートにスポーツをやらせてほしい」 モリゾウさんが言い放った“ド正論” ル・マンの舞台裏、もうひとつの戦い

■「アスリートたちにスポーツをやらせてほしい」……核心をとらえたモリゾウさんの一言

トヨタ自動車の豊田章男会長として笑顔でスピーチするが、モリゾウとしての気持ちは別のところにあった
トヨタ自動車の豊田章男会長として笑顔でスピーチするが、モリゾウとしての気持ちは別のところにあった

 トヨタチームの関係者はもちろん、純粋にレースを愛する人たちは誰もが、100周年の記念大会を日本のトヨタに獲らせたくないないという作為があるのではないかと思った。もっと言うならば100周年という記念すべき大会にワークスとして50年ぶりに戻ってきたフェラーリをどうしても勝たせようとしているのではないかと。

 モリゾウさんはACOや関係者に非公式に会い「アスリートたちにスポーツをやらせてほしい。これはモーターポリティクスではないか」と述べたという。この言葉はどう関係者に響いたであろうか?

グリッドに向かうGR010。耐久レースは完走したら「ノーサイド」の文化がある。表彰台でのフェラーリへの称賛する姿勢はまさにスポーツマンらしいものだった
グリッドに向かうGR010。耐久レースは完走したら「ノーサイド」の文化がある。表彰台でのフェラーリへの称賛する姿勢はまさにスポーツマンらしいものだった

 トヨタに不信感が生まれたのは当然であろう。2週間前にACOのフィヨン会長がスーパー耐久富士24時間レースに来日し、2026年からル・マンのトップカテゴリーに水素をエネルギーとする車両の参加を認めると発表した時に、ル・マンに関するBoPの説明は一切なかった。しかし、そのわずか3日後に発表された。

 モリゾウさんに言わせると、砲丸投げの大会でトヨタだけ重いものを投げろというルール変更ではないか? となる。モリゾウさんはトヨタチームに勝ってほしいが、あくまでもアスリートたちが正々堂々と戦う、純粋なスポーツでなければならないという固い信念を持っている。

 モータースポーツを愛しているがゆえに、不純な政治力で勝敗が左右されることに我慢がならないのだ。それが冒頭の「水素は軽いが、Less BoP(BoPもない)」の発言となった。

 そして、記念式典ではル・マンに貢献した人物に贈られる「スピリット・オブ・ル・マン」の授賞式が予定されていたが、その場では受けず、非公式の場で受けた。記念式典ではトヨタ自動車の豊田章男会長として笑顔を見せていたが、モリゾウとしての腹のうちはまったく別であった。

 モリゾウさんは信頼感を失った相手に「賞はありがたいが、未来を一緒に作る自信がないので、辞退させていただきたい。BoPのポリティシャンにあげてほしい」と話したという。痛烈な一言だ・

■可夢偉も一貴も怒っていた、そこに共感が生まれた

ドライバーと代表を兼ねる小林可夢偉。世界を渡り歩いてきた可夢偉の交渉力は非常に強い
ドライバーと代表を兼ねる小林可夢偉。世界を渡り歩いてきた可夢偉の交渉力は非常に強い

 モリゾウさんがそこまで不満を口にしたのには理由がある。チームを訪れた際に、小林可夢偉チーム代表も中嶋一貴TGRヨーロッパ副会長もチームスタッフみんなが怒っていた。彼らはその不条理な決定に不満を覚えながら、必ず勝ってそれが正義ではないことを証明してみせようという強い思いを共有していた。

 モリゾウさんは現場でそのことをつかみ、共感した。だから、トヨタ自動車会長の豊田章男ではなく、モータースポーツを愛し、自らもルーキーレーシングを率いるモリゾウとして、彼らの気持ちを代弁したのだ。

ゴール直後のル・マンのコースに観衆が詰めかけ、フェラーリを上回る数のGRの旗が振られていた。ちなみに今回は32万5000人もの大観衆が詰めかけた
ゴール直後のル・マンのコースに観衆が詰めかけ、フェラーリを上回る数のGRの旗が振られていた。ちなみに今回は32万5000人もの大観衆が詰めかけた

 小林可夢偉選手が乗る7号車が不運にもクラッシュに巻き込まれ、リタイアした後気持ちを切り替え、チーム代表として8号車のドライバーを鼓舞し続ける姿は「チームのために」という言葉の深さを教えてくれた。8号車が猛烈な追い上げを見せていた時のチームの一体感は波のようだった。

 そして、8号車がスピンし夢が断たれた後も小林可夢偉チーム代表はじっとモニターを見続けていた。少し肩が震えているように見えた。どうしても勝ちたかったレースで負けを受け入れることの厳しさを物語っていた。

 トヨタはフェラーリに敗れはしたが、チーム一丸となってBoPという不条理に立ち向かい精一杯戦った。チームは必ず強くなるだろう。

 100周年という記念すべきル・マンの舞台裏で、モリゾウさんがひとりで戦っていたことを記憶しておきたい。

【画像ギャラリー】欧州と堂々と渡り合ったトヨタ!! ル・マンの舞台裏を見よ(7枚)画像ギャラリー

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