勝田貴元選手に続くWRCドライバーを育成するWRCチャレンジプログラム。3期生に続き、今回は2期生をインタビュー。GRヤリス ラリー2で欧州を転戦する山本雄紀(写真左)と小暮ひかる(写真右)の二人はラリージャパンに参戦予定。欧州を走った印象や勝田貴元選手から学ぶことなどを聞いてみた
文:ベストカーWeb/写真:TOYOTA GAZOO Racing
■今シーズンからGRヤリス ラリー2で欧州を転戦し本場のラリーの凄さを実感
【山本雄紀(やまもと・ゆうき)】1997年2月23日兵庫県生まれ。2018年にラリーチャレンジでラリーデビュー。2021年全日本ラリー選手権のJN6クラスで2勝。趣味はスキーやゴルフで勝負メシはとんかつ。シミュレータでラリーやサーキットを爆走することにハマっているという。座右の銘は「人生一度きり」
【小暮ひかる(こぐれ・ひかる)】2001年4月19日群馬県生まれ。2006年にカートを始め、2017年までさまざまなレースを体験。2020年TRDラリーカップでラリーデビュー。趣味はアニメ鑑賞やゲーム。ゲンは担ぎ部屋の掃除という几帳面な面も。日々英語の勉強にいそしむ毎日。座右の銘は「桜梅桃李」。
ベストカー(以下BC):昨年までのルノー・クリオ・ラリー4から今シーズンはGRヤリス ラリー2にステップアップしてWRCのWRC2クラスはじめ、欧州を転戦していますが、欧州のラリーの印象から聞かせてください。
山本雄紀選手(以下山本):GRヤリス ラリー2の注目度の高さを感じます。サインを求められることもあり、GRのチームの一員として見られている気がします。
小暮ひかる選手(以下小暮):お客さんの熱量が凄いですね。ラリーの規模感も凄いし、モータースポーツへのリスペクトというものを感じます。フィンランドではよく話しかけられたりします。たぶんフィンランド語なのでよくわからず、ニコニコしかできませんが(笑)。
山本:フィンランドに渡った時に一番驚いたのは、やはりレベルの高さというか、運転の上手な若い子がゴロゴロいることでした。
BC:GRヤリス ラリー2の印象はどんなものですか?
山本:昨年までのルノー・クリオ・ラリー4に比べるとトルクもパワーも違うので、最初は苦労しました。特に3気筒の使い方がわからず戸惑いました。高いギアのまま、トルクを落とさずにコーナーリングできるところが3気筒のGRヤリス ラリー2の特長ですが、ついギアを変えてしまいタイムを落とすことがありました。またチーム(TGR-WRT)の開発が進んで、どんどん乗りやすいクルマになっていくことに驚かされます。
小暮:山本さんのいうようにボクも高いギアでもトルクが出る特性をつかめず、最初は思うような走りができませんでした。でも今は慣れてきてセットアップに時間をかけられるようになりました。ただ、乗りやすいがゆえに限界値がわからず、(WRCフィンランドのように)コースオフしてリタイアしてしまうといった自分の実力のなさを思い知らされることもあります。
BC:講師陣からはどんなアドバイスを受けていますか? また日々のトレーニングはどんなものなのでしょう?
山本:インストラクターのミッコ・ヒルボネンさんやユホ・ハンニネンさんからは経験を積むことが大事、GRヤリス ラリー2でできるだけ多くの距離を走ることが今年の目標と言われています。今季は全11戦の参戦が予定され、路面もグラベル(未舗装路)、ターマック(舗装路)、スノー(雪や氷の路面)とさまざまで、実戦で得た経験をどう生かしていくかが問われている一年だと思います。実戦で感じた疑問やミスした原因、逆にうまくいった要因をしっかりと分析してアドバイスをもらうことができるので、毎戦学ぶことはたくさんあります。
小暮:欧州のラリーは毎戦ごと、SSごとにも路面が違い、グリップコンディションが違うので、とにかく失敗を恐れず学んでいくことだと思います。またラリー後にはレポートを書いて自分の走りを分析することも、大事なトレーニングのひとつです。
山本:ドライビング以外で必ずやることはフィジカルトレーニングです。ラリードライバーはレーシングドライバーのようにムキムキになる必要はないのですが、レッキ(試走)から何時間も乗りっぱなしという場合も珍しくないので、疲れない身体づくりが重要になってきます。
小暮:フィジカルトレーニングを続けてきたことでVO2maxという酸素の摂取量の数値がどんどん上がってきて、実際に疲れにくい身体になってきたと思います。
山本:万が一クラッシュした時も大ケガをしにくい身体になることも重要で、フィンランドではラリーをフィジカル面から研究されていることに驚きます。
BC:自分のドライビングスタイルを含めた長所と短所を教えてください。
山本:全日本ラリーに出場していた頃はヤリスのCVTだったのでフロントタイヤを使えるというか、信じ切れるところがあります。その一方でGRヤリス ラリー2のような4WD車に乗ると、リアのグリップがもうひとつつかめないところがあり、もっとリアのセンサーを磨きたいと思っています。
小暮:山本さんと真逆です(笑)。カートの経験からリアのグリップを信じて走っています。コーナーの入り口でクルマにアングルをつけるドライビングスタイルです。ただ、雨や深いグラベルなどコンディションの悪いところではアクセルを踏んでデフを利かせ、フロントが引っ張ってくれるといった走りをしなければなりませんが、それがまだ自分のものにできていません。
BC:お二人ともしっかりと分析されているんですね。それではもっと速く走るためにはどんなことが必要だと考えていますか?
山本:殻を破ることだと思います。今シーズンは各ラリーでの完走が目標ですが、そのなかでも納得した走りができたかと言えばNOです。もっと攻めた走りをしなければ! と思うのですが、どうしてもマージンを取ってしまうところがあるので、ポテンシャルを上げると同時に、気持ちを強く持ち、攻める走りができるようになることが必要だと思っています。
小暮:今シーズンはフィンランドやエストニアといった高速グラベルをたくさん走ることができました。大きな経験になり、自信にもなりましたが、ポルトガルやサルディニ(イタリア)といったテクニカルコースでも対応できるような技術を磨かないといけないと思っています。もうひとつ、自分では抑えて走っているつもりでもマージンが取り切れていなかったことがあるので、リスクマネージメントをしっかりしながら、スピードを落とさないといった走りを身に付けることが必須です。
BC :同じ若手ドライバーとしてWRC2からトップカテゴリーに上がって、好成績を残すセスクス選手(24歳 ラリー・ラトビア総合7位)やパヤリ選手(22歳 ラリー・フィンランド総合4位)をどんなふうに見ていますか?
山本:パヤリ選手の横に一度乗ったことがあります。クルマがスライドした時の反応の速さに驚きました。雪上でしたが、その鋭い感覚には正直かなわないと思いました。
小暮:セスクス選手のことは映像で見る限りでしかないのですが、アグレッシブな走りの反面、ラインを外さない正確さも感じます。いきなりトップカテゴリーで結果を残すというのは、才能もそうですが環境への適応能力がないとできないことだと思います。
BC:先輩である勝田貴元選手から学ぶことを教えてください。
山本:ラリー2のカテゴリーでしっかり結果を残せば、トップカテゴリーでも活躍できるということを証明してくれたことが、ボクらの大きな励みになっています。自分の意見をチームにしっかりと伝える、遠慮せずに話すことがチームと自分のためになるという信念を持ち、固い信頼関係を築かれているところが凄いところだと思います。
小暮:勝田選手のようにカートやフォーミュラからラリーに転向してトップドライバーになれるなんて信じられないというのが率直な印象です。ボクもカートをやっていたからわかるのですが、クルマの挙動がまったく違いますから。ほとんど話せなかった英語をしっかりと身に付けたり、フィジカル面でもトレーニングで強靭な肉体を手に入れたりと、とにかく夢を叶えるために日々努力しているところが一番学ぶべき点だと思います。
BC:ラトバラ監督を身近で見た印象を聞かせてください。
山本:ラリーへの情熱がハンパないです。若いころと一切変わっていないと皆さん言うようにラリー愛は世界一じゃないですか!?(笑)。
小暮:ボクたちのインストラクターであるユホ・ハンニネンがラリー・フィンランドでコ・ドライバーを務めました。彼から聞いたんですが、とにかくタイムを気にするし、ミスをするととてもがっかりするそうで、本当に負けず嫌いなんだと思います。ボクたちにもドライバー目線でアドバイスをいただけ、納得することが多いです。
コメント
コメントの使い方