2026年2月8日に投開票された第51回衆議院選挙で、自民党が316議席を獲得する歴史的圧勝を果たした。これは戦後最多の議席数であり、単独で憲法改正の発議が可能となる3分の2(310議席)を超える結果となった。高市早苗政権の継続が確定したことで、選挙公約に掲げられた自動車関連政策が本格始動する見通しだ。
特に注目されるのが、「自動車産業の国内基盤の維持・拡大」と「税制面の見直し」を明記した公約だ。さらに、2030年のSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)世界市場シェア3割獲得を目標に掲げた公約41番も、自動車業界に大きなインパクトを与えそうだ。では、この選挙結果を受けて、実際に自動車関連政策はどうなるのか。自民党の「総合政策集2026 J-ファイル」を詳細に分析し、業界に与える影響を読み解く。
文:ベストカー編集局長T、画像:自由民主党公式サイトより
【画像ギャラリー】高市総理と自工会会長・経団連副会長の佐藤恒治氏(4枚)画像ギャラリー自動車税制改革──まずは何より「暫定税率廃止」の恒久化
自動車情報専門メディアにとって、今回自民党が掲げた選挙公約で最も注目すべきは公約42番「自動車産業の国内基盤の維持・拡大」だ。ここには明確に「税制面の見直しを含め、短・中・長期で切れ目ない大胆な施策を実行して行く」と記載されている。
■自民党公約「Jファイル2026」 (PDF版/ナンバリングあり)
自動車関連税制は、長年、業界と政府とユーザーの間で議論の的となってきた。日本の自動車ユーザーが負担する税金は、取得時の消費税、環境性能割に加え、保有時の自動車税・軽自動車税、さらに走行時のガソリン税(揮発油税・地方揮発油税)と多岐にわたる。特にガソリン税の暫定税率は、本来の税率に25.1円/Lを上乗せする形で約50年間続いてきた。
簡単に言うと、自動車の税金は諸外国と比べて高いし複雑。課税根拠も曖昧。
高市政権は昨年、このうち暫定税率廃止を決定。「ガソリンについては、昨年(2025年)末、25.1円/Lの暫定税率を廃止。軽油については、暫定税率17.1円の本年(2026年)4月1日の廃止を決定した上で、補助金拡充によって、昨年11月下旬から既に廃止同様の価格の引下げを実現」(公約8番)と明記されている。
この暫定税率廃止については(軽油についても)、今回の選挙結果により、当面のあいだは廃止が恒久化したと見ていいだろう(油断しているとさらっと戻しそうな政治決定もありうる)。
また、今回の自民大勝によって、自動車税・軽自動車税の本格的な見直しも加速するだろう。特にEV(電気自動車)へのシフトが進む中、エンジン排気量を基準とした現行の課税体系は時代に合わなくなっている。車両重量を基準とした新たな課税方式への移行が議論されることになる。ガソリンの需要が漸減してゆくなかで、重くて道路へのダメージが大きいわりに燃料代と税金は優遇されているBEVを税制上どう扱うか(産業目標としてシェア拡大も狙いたいので、国家戦略レベルでのすり合わせが必要)、そういう議論を進める必要がある。
国内投資135兆円目標──自動車産業の覚悟
自民党公約4番では、「2030年度135兆円・2040年度200兆円という国内投資目標の実現に向け、官民一体で国内投資を加速」と明記されている。自動車産業は製造業の中核であり、この投資目標の重要な担い手となる。
高市政権は「危機管理投資」という新しい概念を打ち出している。これは、サプライチェーンの途絶や技術覇権競争といったリスクに対し、国内での生産能力と技術基盤を確保する投資を指す。自動車産業にとっては、半導体不足で痛感したサプライチェーンの脆弱性を克服する好機だ。
公約には「即時償却等の大胆な設備投資税制の導入」も盛り込まれた。これは企業が設備投資を行った年度に、投資額の全額を経費として計上できる制度だ。自動車メーカーや部品サプライヤーにとって、電動化対応や生産設備の刷新に踏み切る大きなインセンティブとなる。
トヨタ自動車の豊田章男会長は以前、「日本で550万台の生産を維持する」と宣言した。ホンダも国内生産の重要性を強調している。高市政権の国内投資重視政策は、自動車メーカーの国内回帰を後押しする追い風となりそうだ。
高市総理の懐刀といえる片山さつき財務大臣は、製造業への投資戦略に前向きな政治家。先頃の国民民主党・榛葉賀津也幹事長と国会答弁でも、世界で勝てる数少ない国内産業としての自動車産業について、「角を矯めて牛を殺すようなことはしない」と明言した。
日本の製造業のど真ん中である自動車産業へのフォローを、ぜひ引き続きお願いしたい。
SDV世界シェア3割──ソフトウェアで勝負する
公約41番「自動車・モビリティ産業の支援」では、「2030年のSDV(Software Defined Vehicle)世界市場シェア3割獲得を目指します」と具体的な数値目標が掲げられた。
SDVとは、ソフトウェアで車両の機能や性能を定義・更新できる次世代自動車のこと。テスラが先駆けであり、Over-The-Air(OTA)アップデートで継続的に機能を進化させる。従来の「ハードウェア主体の自動車」から「ソフトウェア主体の自動車」への大転換だ。
国内の各自動車メーカーも躍起になって開発を進めており、まだ時間はかかるものの中国、アメリカを追いかける体制が整いつつある。
公約では「最先端のAIを活用した自動運転技術などSDVに必要な技術開発や自動運転の社会実装の早期実現、脱炭素等に資するデータの利活用を促進」するとしている。国が主導してSDV技術の開発支援と社会実装を加速させる姿勢だ。
具体的には、以下の施策が想定される。
【技術開発支援】
公約では研究開発税制に「戦略技術領域型」を創設(公約63番)するとしている。SDVに必要なAI、自動運転、車載半導体などの技術開発に対し、手厚い税制優遇が期待できる。
【社会実装の加速】
公約33番で推進する「デジタルライフライン全国総合整備計画」では、自動運転サービス支援道路の整備が含まれる。レベル4自動運転の実用化に向けたインフラ整備が本格化する。
【データ連携基盤の構築】
公約33番の「ウラノス・エコシステム」では、蓄電池サプライチェーンでのカーボンフットプリント算出に向けたデータ連携システムを推進する。自動車のライフサイクル全体でデータを共有するプラットフォームが整備される。
ここでポイントとなるのが、つい先日発表された、トヨタ自動車・佐藤恒治社長の日本自動車工業会会長職および経団連副会長職への専念(そのためトヨタ内で社長から副会長へ変更)という人事。
いま自動車産業は大変厳しい国際情勢に晒されており、SDV開発はその最前線のひとつ。他国のように官民連携して事態にあたる必要がある。
自民党が大勝し、地固めができたところで、自工会と経団連とトヨタが一枚岩となって対応できるのは心強い。
半導体・AI──自動車を支える頭脳の国産化
SDVの実現には、高性能な車載半導体とAI技術が不可欠だ。高市政権はこの分野でも明確な方針を打ち出している。
公約34番では「用途毎に最適な最先端半導体の設計開発を支援します。また、次世代半導体については、その量産を実現するべく、技術開発の継続に加えて、法律に基づく必要な出融資等の金融支援も含めて、積極的に支援を行います」としている。
自動車1台あたりの半導体搭載数は急増している。特にEVや自動運転車では、パワー半導体、センサー、AIプロセッサーなど、多種多様な半導体が数千個単位で使用される。2021年の半導体不足では、世界中の自動車メーカーが減産を強いられた教訓がある。
高市政権は、Rapidus(ラピダス)による次世代半導体の国産化を強力に支援する方針だ。2027年の量産開始を目指すRapidusには、トヨタやデンソーも出資している。車載用2nmプロセス半導体の国産化が実現すれば、日本の自動車産業は大きなアドバンテージを得ることになる。
また、公約34番では「生成AIそのものの開発」と「民間による計算資源(データセンター)やデータの整備」を進めるとしている。自動運転の頭脳となるAIモデルの開発には、膨大な計算資源が必要だ。国内にAI開発基盤を整備することで、技術流出リスクを抑えつつ、競争力を高める戦略だ。
自動運転──レベル4実用化へ
自動運転技術の社会実装も加速する。公約41番では「自動運転の社会実装の早期実現」を明記している。
日本ではすでに、限定エリアでのレベル4自動運転(特定条件下での完全自動運転)が法的に可能となっている。福井県永平寺町では、自動運転バスが実用化されている。神奈川県横浜市や東京お台場では無人タクシー、無人バスの実証実験が進む。
高市政権は、こうした先行事例を全国に展開する方針だ。公約33番の「デジタルライフライン全国総合整備計画」では、「先行地域における自動運転サービス支援道、ドローン航路、インフラ管理DX等のアーリーハーベストプロジェクトの成果も踏まえ、他地域への展開を図ります」としている。
自動運転の普及は、高齢化が進む地方の移動手段確保に直結する。過疎地域でのバス路線廃止が相次ぐ中、自動運転バスは「ラストワンマイル」の救世主となりうる。
また、物流業界でも自動運転トラックへの期待は大きい。2024年問題(ドライバー不足)が深刻化する中、高速道路でのレベル4自動運転トラックの実用化が急務だ。いすゞ自動車やUDトラックスは、すでに隊列走行の実証実験を行っている。




コメント
コメントの使い方