最先端解析の横でガムテープ!! 新型GRMNカローラ開発陣が語った”泥臭い執念”と「モリゾウのこだわり」

最先端解析の横でガムテープ!! 新型GRMNカローラ開発陣が語った”泥臭い執念”と「モリゾウのこだわり」

 2026年6月2日、GAZOO Racing(GR)が世界初公開した「GRMNカローラ」。その3日後の6月5日、開発の舞台ともなった富士スピードウェイ・ウェルカムプラザにて、開発陣による記者説明会が開かれた。チーフエンジニアの坂本尚之氏が解説。スーパー耐久シリーズへの水素カローラ参戦で得た空力の知見、ニュルブルクリンクで露呈した4WD制御の盲点、そしてコンピューター解析の横でガムテープを貼り変えるアナログ極まりない現場主義……、カタログ数値の奥に眠る”執念の物語”を聞いたら、このクルマのガチ度がさらに凄まじく見えてきたので、読者諸兄にも紹介します。

文:ベストカー編集局長T、画像:トヨタ自動車、ベストカー編集部

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スーパー耐「水素カローラ」が育てた「カーボン製エアロ4点セット」の正体

 今回発表された「GRMNカローラ」に装着されるカーボン製エアロパーツ——フードダクト、フロントサイドスポイラー、フロントフェンダーダクト、そして5段階の角度調整機構を持つリヤウィング——は、まとめて「S耐と富士スピードウェイで鍛えられた専用パーツ」と言っていい。

 スーパー耐久シリーズに参戦する水素エンジン搭載GRカローラは、GRMNの開発において絶好のテスト台となった。レースという過酷な状況は、通常のテストでは見えてこない接地性の課題を容赦なく炙り出す。フードダクトはエンジンルームの熱気を整流しながら排出し、フロントの揚力を低減。フロントサイドスポイラーはバンパー後端のフレア形状で空気の流れを整え、ニュルブルクリンクのような激しい上下振動の連続でも車体の余計な動きを抑え込む。フェンダーダクトはホイールハウス内の空気を整流・排出してタイヤの接地感を向上させ、リヤウィングはコーナーリング時の姿勢安定とダウンフォースを両立させる——これら4つのパーツが協調して機能することで、富士スピードウェイの100Rをはじめとするコーナーでの接地感が劇的に高まり、アクセル全開区間が大きく増えたというのだから、その効果は本物だ。

富士スピードウェイのウェルカムプラザに展示されているGRMNカローラ。艶消しブラックのボディはめっちゃかっこいい。「欲しい!」とも思うが、いっぽうで「2シーターはきつい」というモリゾウさんのコメントにも共感
富士スピードウェイのウェルカムプラザに展示されているGRMNカローラ。艶消しブラックのボディはめっちゃかっこいい。「欲しい!」とも思うが、いっぽうで「2シーターはきつい」というモリゾウさんのコメントにも共感

 さらに驚かされるのが、各ダクトから流れ出る空気の「干渉」まで徹底的に考慮した点だ。ひとつのダクトだけ最適化しても、隣のパーツと空気の流れがぶつかれば意味がない。それぞれの形状を細かく作り込み、速さだけでなく一般道での直進安定性やステアリングへの素直な反応感まで高めているというのが、GRMNカローラの奥深いところだ。

「最後はガムテープで突き詰める」——坂本チーフエンジニアの超アナログ現場主義

 しかし、開発の手法そのものがこの記事最大の読みどころかもしれない。坂本チーフエンジニアはこう打ち明けた。

「コンピューター解析とか、そういう高度なかっこいいこともするんですけども、最終的にはですね、現場でガムテープを貼って開口面積を変えてみるという、アナログなことで最後は突き詰めているところもあります」

 最新の流体シミュレーションで方向性を出し、風洞実験で確認したうえで、実際のコースで「ガムテープで塞いで走ってみる、少し開けて走ってみる」を繰り返す。このアナログな現場主義が試作を3回もやり直す執念に直結した。

中でもボンネットのスリット(フードダクト)は、現場エンジニアの知恵が生んだ傑作だ。

「前から風が入ってボンネットの中に入り、どこかから抜けていく。そこをうまいこと制御してボディに沿わすように流すことで、クルマの安定性(スタビリティ)が良くなる。現場の知恵を吸い上げて実現したアイテムです」(坂本チーフエンジニア)

「かっこいい開発」と「泥臭い現場」の両輪があってこそ、GRMNカローラのエアロは完成したということだ。

GR公式から配布された画像、めっちゃ笑顔のモリゾウが写る。トニー・スタークみたいなポーズ。さすが「自称・ただのクルマ好きのおじさん」
GR公式から配布された画像、めっちゃ笑顔のモリゾウが写る。トニー・スタークみたいなポーズ。さすが「自称・ただのクルマ好きのおじさん」

ニュルで露呈した4WD制御の「盲点」——現地緊急修正の修羅場

 国内サーキットで完璧に仕上げたつもりのクルマが、世界一過酷と言われるニュルブルクリンクで意外な弱点を露わにした。超高速域からのターンイン時——ビルシュタインコーナーのような高速左コーナーへの飛び込みで——4WD制御のトルク配分に不自然な違和感が生じたのだ。国内では一切出なかった症状が、ニュルの過酷な路面と超高速域という組み合わせで初めて顕在化した。

 これを坂本チーフエンジニアは「ニュルという道、起伏があったり過酷な条件でクルマを鍛える。そういったところで鍛えたクルマは本当にいいクルマになる」と語る。弱点を炙り出すからこそ、ニュルでのテストに意味があるというわけだ。現地でプログラムを急遽見直し、直進時のリヤ側トルク配分を最適化して、ステアリングの切り始めの安定性を取り戻した。

 足回りもmm単位の執念の産物だ。車両評価担当の大阪明博氏が担当したバウンドストッパーのクリアランス調整は、フロントを4mm縮め、リヤを2mm広げるという繊細な作業の積み重ね。コーナーのターンイン時の姿勢安定と、立ち上がりのトラクションを高次元で両立させている。前後には専用のモノチューブショックアブソーバー(フロント倒立式、リヤ正立式、ともにリバウンドスプリング内蔵)を採用。タイヤはベース車より10mm拡幅された245/40ZR18の「Michelin Pilot Sport Cup 2」だ。このハイグリップタイヤと足回りの組み合わせが生み出すコーナリング性能は、もはやサーキット専用車の領域に踏み込んでいる。

150秒間噴射するインタークーラースプレーと、415Nmが生む「野性味」

 坂本チーフエンジニアのこの説明には、思わず唸ってしまった。

「今回、GRカローラにインタークーラースプレーを搭載させていただきました。3.7Lの水タンクがラゲッジルームに積んであります。これ、どれぐらい持つかって言うと『150秒』持ちます。富士スピードウェイのアタックラップに十分使える量なんです」

 ラゲッジルームに3.7Lのタンクを積んで、1周まるごとエンジンを冷やし続ける。これはもはや公道スポーツカーの発想ではなく、レーシングカーのそれだ。連続した全開走行でも安定した高出力を維持するために、クールエアダクト(2025式後期GRカローラから採用)に加えてインタークーラースプレーまで追加されているのだから、「ガチ度」は疑いようがない。

ボンネット内も公開された。これがゴリゴリに作り込まれたGRMNの中身
ボンネット内も公開された。これがゴリゴリに作り込まれたGRMNの中身

 エンジントルクは、コーナーの立ち上がり加速に最も重要な中速域(3,600〜4,800rpm)のレスポンスを重点的に磨き、最大トルクはベース車比+15Nmとなる415Nmに到達した。これはスーパー耐久参戦の水素カローラで蓄積した燃焼解析の知見が直接活かされた結果だ。リヤシートを撤去した2シーター化でベース車比約30kgの軽量化も達成しており、このパワーウェイトレシオの改善こそが「マスタードライバー・モリゾウが求めた野性味」に直結する。

 ボディ骨格も抜かりない。2025式後期のGRカローラで採用された「構造用接着剤の13.9m延長(計32.7m)」という強化が、GRMNカローラの土台に組み込まれている。これは25式前期比で+13.9mもの延長であり、ニュルでの学びから生まれた改良だ。街乗りからサーキットまで、あらゆる場面でドライバーとクルマの一体感を底上げする。

石浦選手が「最初から欲しかった」フルバケと、映り込みを消す「植毛インパネ」

 コクピットも徹底した「ドライバーファースト」で作り込まれている。専用のフルバケットシートは、開発に携わったプロドライバー・石浦宏明選手が開発初期から強く求め続けたアイテムだ。S耐参戦車両に実際に搭載し、ヘルメットとHANS(頭頸部保護装置)を着用した状態での評価を何度も繰り返して完成した。MORIZO Editionのセミバケットシートよりヒップポイントを15mmダウンさせ、より低いポジションでドライバーを深くホールドする本格仕様だ。

専用開発のバケットシート。このシートだけでもオプション販売してくれないかな……
専用開発のバケットシート。このシートだけでもオプション販売してくれないかな……

 サーキット走行では「拘束しすぎ」も疲れの原因になる——だから押さえるべき部分はしっかり支え、弱肩になりやすい部分にはゆとりを持たせるという絶妙なバランスが追求された。GFRPを採用することで軽量化も両立しており、乗降性や日常使いへの配慮も忘れていない。

 そして、インストルメントパネルとフロントピラートリムに施された「植毛加工」。これはサーキット走行でのフロントウィンドウへの反射・映り込みを防ぎ、クリアな視界を確保するための工夫だ。トヨタ元町工場カーボン課が開発・製造するカーボン製オーナメント、モリゾウのサイン入りパッド、GRMN専用シリアルナンバープレートなど、オーナーだけが味わえる特別感も盛り込まれている。細部の細部まで「走りのために」こだわり抜いたコクピットは、乗り込んだ瞬間から別格のテンションを引き出してくれるはずだ。

「モリゾウは5人乗りが欲しかった」——思わずニヤリとする開発秘話とMORIZO RR

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