バイクや自動車のメンテナンスで使用するハンドツールの中で最もベーシックであり、しかしあまり出番がないのがオープンエンドレンチ=スパナではないでしょうか。メガネレンチやソケットレンチに慣れると欠点ばかりが気になりますが、スパナにはスパナの意義があり、工具セットの中で不可欠な存在です。ここでは弱点のひとつである「差し替え」の手間を省いた進化形スパナを紹介します。
スパナの弱点をおさらいしよう

一見すると向かい合う二辺が接しているようだが、スパナとナットの間に隙間がないと抜き差しできないので密着していない。すると六角頭の対頂の2点で力を受け止めることになるので、同じトルクでも接触部分に加わる応力はメガネレンチやソケットレンチの3倍となり、角部を傷める原因となる。
メンテナンスや部品の着脱でボルトやナットを回す時に使用する工具には、スパナ、メガネレンチ、ソケットレンチ、Tレンチなどいくつもの選択肢があります。この中で、ちょっと作業慣れしたサンデーメカニックが初手で使わないのはスパナではないでしょうか。
ホームセンターの工具コーナーやセットものの工具の中でいちばん当たり前の存在であるはずのスパナが選ばれないのには、いくつかの、そしてもっともな理由があります。
スパナには以下のようなデメリットがあります。
①接触面積が少ない
通常のスパナは六角の二面しか保持しません。そのため、
応力集中
ボルト角の損傷
ナットなめ
などが発生しやすくなります。締め付けトルクが大きくなるほど、このリスクも高まります。
②大トルクに向かない
オープンエンドとも呼ばれるスパナは文字通り端部が開いているので、緩め方向でも締め方向でも力を掛けるとさらに開こうとします。これを「口開き」と呼びます。結果として、
工具が滑る
ボルトを傷める
という問題が起きます。
③差し替えが必要
一般的なスパナは、回す→抜く→掛け直す→回す
を繰り返します。このため作業場所のスペースが狭く振り角を確保できない場所では、何度も掛け直しが必要になります。
実際の作業では、特に③がストレスの原因になります。メガネレンチもプロペラのようにグルグル回せる場所でない限り、ボルトやナットに差し替えながら使いますが、12角(12ポイント)メガネなら30°振れば掛け替えることができます。しかしスパナは「次の面」に差し替えるまでに60°回さなくてはなりません。グリップ部に対して開口部を傾けたオフセットスパナであれば、表裏を使い分けることで30°の振り角でボルトを回せますが、それでも手間が掛かります。
これに対して、72ギアのラチェットハンドルなら送り角5°でソケットを回せるので、狭い場所での作業性の差は明らかです。
こうした事実から分かるとおり、メガネレンチやソケットレンチが使える状況であれば、敢えてスパナを選ぶ理由はないというのが現実といって良いでしょう。
とはいえスパナにしかできない作業もある
メガネレンチやソケットレンチより振り角が必要で、大きなトルクを掛けるのにも適していないスパナですが、以下に挙げるように作業内容によってはスパナしか使えない場合もあります。
①横から差し込める
めがねレンチやソケットはボルト頭やナットの上から挿入する必要がありますが、スパナは横から差し込めます。例えば
ブレーキ配管
油圧配管
スタッドボルトのナット
など、ナットの上下にパイプやボルトが貫通している場面ではスパナしか使えません。
②狭い場所に入る
①と連動する内容として、ヘッド部が薄いのも特徴です。ボルトやナット上部のクリアランスが小さくてラチェットハンドルのヘッドが緩衝してしまうような場面でも、スパナなら差し込める場合があります。
③早く掛けられる
メガネレンチやソケットのように、ボルトやナットの六角頭に完全にかぶせる必要がなく、横から引っ掛けるだけで回すことができるので、仮締めや低トルクの場合は作業効率がアップします。一方で開口部の掛かりが浅い状態で大きな力を加えるとボルトの角部をナメ易いので注意が必要です。
このようにスパナにはスパナの出番があるため、工具箱からなくなることはないのです。
スパナの利点を生かしつつ弱点を補完するクイック機構

回し方向と緩め方向で向きが変わる可動ツメによって六角頭のホールドとリリースを切り替え、スパナ本体を抜き差しすることなくボルトやナットを回すことができる。可動ツメと向かい合うアゴも凹凸デザインで、アゴの矢印方向に力を加えた際は六角頭をしっかり保持し、反対側に回すと空回りしてグリップを振り戻すことができる。
強度や作業性の良さはメガネレンチやソケットレンチに譲るものの、作業内容によっては利点があるスパナ。その大きな弱点である「ボルトを回すたびに抜いて差し込む」 動作に切り込み、これを改善したのがクイック機構付きスパナです。
これはアメリカの工具メーカー、スナップオンのSpeed Open-Endレンチが起源とされています。このレンチは独特のアゴ形状によって抜き差しすることなく、グリップの振り角だけでボルトやナットを連続的に回せるのが特徴でした。
一方でその後に登場したクイック機構は、例えばここで紹介するTONE製のクイックスパナのように、一方のアゴの可動ツメが支点を軸に揺動して六角頭を掴んだり離したりすることで、スパナ本体を抜き差しすることなくボルトやナットを連続的に回すことができるのが特徴です。
またこのスパナは可動ツメと反対側のアゴに独特の凹凸があり、これもまた抜き差しなしで連続的に早回しできる秘訣となっています。
通常のスパナは表裏どちらでも回すことができますが、このスパナは可動ツメがあるため締め作業でも緩め作業でも回す方向は一定となります。
またツメの裏側にはテンションを掛けるスプリングを内蔵しているため、汚れが付着したバイクで使用するとメカニカル部分に砂利などの異物が噛み込んでしまう懸念もあります。
それでも
回す→抜く→掛け直す→回す……といった一般的なスパナの動作が
回す→戻す→回す→戻す……となり、工具を外さずに済むことで作業時間が短縮できます。
狭い場所では工具の脱着によるストレスが緩和され、掛け直し回数が減るためボルト角を傷めるリスクが減ることも大きなメリットとなります。
メンテナンスの中で限られたシチュエーションでしか出番がないという面はありますが、クイック機構によって工具を外すことなく連続作業を可能にした進化形スパナは、作業効率アップを目指すサンデーメカニックにとっては魅力的な工具となるはずです。

TONEのクイックスパナには片側めがねのコンビネーションタイプの他、通常のスパナタイプもある。またコンビネーションタイプのめがね部分は画像の首振り、首振りのないストレートタイプ、回転方向をレバーで変更する切替式がある。
- ポイント1・スパナには、ボルトやナットとの接触部が2点で大トルクを加えると開口部が開こうとする弱点がある
- ポイント2・パイプやボルトが貫通したナットに横から差し込んで回すのはスパナにしかできないため、さまざまな作業を行うためには不可欠
- ポイント3・クイックスパナはアゴの内側に可動ツメを設けることで、本体を抜き差しすることなく連続的にボルトやナットを回せるのが特長
詳細はこちらのリンクよりご覧ください。
https://news.webike.net/maintenance/546635/
なぜスパナが必要なのか? スパナの常識を変えるクイック機構に注目【画像ギャラリー】
https://news.webike.net/gallery3/546635/546646/





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