試乗会とは単に「クルマを走らせる場」ではない! 45年以上の取材歴を持つベテランが忘れられない「メーカーの哲学」を体感した瞬間!

試乗会とは単に「クルマを走らせる場」ではない! 45年以上の取材歴を持つベテランが忘れられない「メーカーの哲学」を体感した瞬間!

 クルマの価値は、スペック表や短い試乗だけでは見えてこない。歴史、技術、ブランドの世界観まで含めて体験させる試乗会には、そのメーカーが何を大切にしているのかが表れる。記憶に残る名車たちの試乗会を振り返りながら、クルマづくりの思想を考えていく。

文:中谷明彦/写真:ベストカーWeb編集部、メルセデス・ベンツほか

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名車の試乗会から見るメーカーの思想

1998年登場メルセデス・ベンツ Sクラス(W220型)。前期後期通してV6からV12までモデルが存在した恐るべきクルマだ
1998年登場メルセデス・ベンツ Sクラス(W220型)。前期後期通してV6からV12までモデルが存在した恐るべきクルマだ

 自動車メーカーが主催する試乗会にメディアとして参加するという仕事に携わって45年以上になる。その間、国内外を問わず数え切れないほどの試乗会に参加してきた。新型車が登場するたびに世界各地へ足を運び、その土地の道路を走り、そのクルマの技術的特徴や走行性能を確かめてきたのである。

 それだけ多くの経験を重ねてきた中でも、いまなお鮮明に記憶に残る試乗会がいくつか存在する。それらは単に美しい景色や豪華な接待が印象的だったというだけではない。メーカーがクルマという商品に込めた思想や哲学を、参加者に全身で感じさせる演出がなされていたからだ。

 最も忘れ難いのが1998年に開催された4代目メルセデス・ベンツ Sクラス(W220型)の国際試乗会である。試乗会の舞台はドイツ・シュツットガルト。メルセデス本社と生産工場を中心に組まれたプログラムは、単なる新型車発表会の域をはるかに超えていた。

 まず案内されたのは、メルセデス・ベンツが所有する歴代車両を収蔵するミュージアムだった。そこには初代から歴代すべてのSクラスが年代順に並べられ、その姿だけでも圧巻である。メーカーが自社の歴史をここまで大切に保存し続けていることに感銘を受けた。

売って終わりではない、歴史を感じる圧巻の演出

1972年にSクラスの名称が正式に登場したW116
1972年にSクラスの名称が正式に登場したW116

 さらに驚かされたのは、それら展示車両の多くが購入可能だという説明だった。隣接するクラシックセンターには歴代モデルの設計図や部品データが保管され、カスタマーが希望すれば数十年前のモデルでも新車同様のコンディションへ復元できるという。莫大な費用が必要なのかと思えば決して現実離れした価格ではないという話にも驚いた。

 メーカーが「売って終わり」ではなく、自社の歴史そのものを商品価値として維持し続ける姿勢からは日本メーカーとは異なる文化を感じさせられた。

 さらに試乗プログラムも前例のない内容だった。参加者はミュージアムに保存されている歴代Sクラスを年代順に乗り継ぎながらスイス方面へ向かう。世代ごとの進化を自ら体験し、その延長線上に新型Sクラスが存在することを身体で理解させる構成なのである。

 そしてスイス湖畔のホテルに到着したところで、初めて新型W220が姿を現す。過去から現在へ。歴史を辿った最後に未来へ乗り換えるという演出は見事だった。

新世代のSクラスが提示してくる未来

正式なSクラスとしては3代目に当たるW140型のSクラス。W220はこのW140のコンセプトを大きく見直すこととなった
正式なSクラスとしては3代目に当たるW140型のSクラス。W220はこのW140のコンセプトを大きく見直すこととなった

 翌日は新型Sクラスでさらにロングツーリングを行い、帰路では工場見学と技術説明が待っている。カットモデルやボディ構造、安全装備、電子制御システムまで詳細な解説を受けることで、このクルマがなぜこの設計になったのかを深く理解できた。

 気が付けば「欲しい」と思わされている。決して押し売りではない。メーカーが積み重ねてきた歴史と技術への自信が、そのまま商品価値となって伝わってくるのである。

 もっとも、今振り返ればW220はそれ以前のW140と比べると大きな方向転換を図ったモデルだった。

 W140は「最後のオーバークオリティ」と呼ばれるほど重量級で、圧倒的な重厚感を持つSクラスだった。一方、W220は軽量化と効率化を重視し、電子制御技術を積極的に導入した新世代モデルである。質感という点ではW140の重厚さを惜しむ声も少なくなかった。

 しかし軽快なハンドリングと現代的な電子デバイスによる新しい高級車像を提示した意義は極めて大きかったと言える。その評価とは別に、あの試乗会の完成度だけは間違いなく世界最高峰だった。

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