タイヤの後ろにぶら下がる、泥除け。かつてはほぼ全てのクルマについていたマッドガードが、いつの間にか姿を消しつつある。なぜこの地味だが実用的なパーツが消えていったのか、その背景を探っていこう。
文:佐々木 亘/画像:トヨタ・三菱
【画像ギャラリー】まだ付いてるクルマあったぞ!! 現行「ランクル70」は巨大なマッドガードを堂々装着(22枚)画像ギャラリーかつては当たり前だった「泥よけ」の存在
マッドガードは、タイヤが跳ね上げる泥や水、小石などが後続車や歩行者、そしてボディ自体に飛び散るのを防ぐためのパーツだ。フェンダーの後端やホイールアーチの下部にぶら下がるように取り付けられ、走行中にタイヤの回転によって巻き上げられる異物を受け止める役割を果たしてきた。
一昔前の日本車、特にセダンやミニバン、軽自動車においては、前後4輪すべてにマッドガードが標準装着されているのがごく当たり前の光景。雨上がりの道や未舗装路を走った際に後続車へ泥はねを浴びせないための、いわば「思いやりの装備」として、長らく日本の道路事情に根付いていたのである。
デザイン重視の潮流が、まず標準装備から締め出した
近年、多くの新型車でマッドガードが標準装備から姿を消し、ディーラーオプション扱いへと格下げされるケースが目立ってきた。ディーラーオプションそのものからも姿を消しつつある。その最大の理由として挙げられるのが、デザイン性への配慮だ。
近年の新型車は、ボディサイドの造形やホイールまわりのプロポーションに徹底的にこだわって開発されている。
せっかく作り込んだ足元の見た目を、後付け感のあるマットガードが台無しにしてしまうという判断から、標準では装着せず、デザインを重視するユーザーは装着しないという選択を可能にする流れが強まっているのだ。特にスポーティなグレードや上級グレードほど、この傾向が顕著に表れる。
もうひとつの理由として無視できないのが、空気抵抗への配慮だ。マッドガードはボディ側面から下方向に張り出す形状をしているため、走行中の空気の流れをわずかに乱す要因になり得る。
燃費性能や電費性能への要求が年々厳しくなるなか、コンマ数パーセント単位での空力改善を積み重ねる開発現場において、マッドガードの張り出しは決して無視できる存在ではなくなってきている。
特にハイブリッド車やEVでは、航続距離を1kmでも伸ばすための地道な改善が積み重ねられており、外装パーツひとつひとつの空力への影響が精査される。マッドガードのような突起物は、こうした開発思想のなかで真っ先に見直しの対象となりやすいパーツだといえるだろう。
【画像ギャラリー】まだ付いてるクルマあったぞ!! 現行「ランクル70」は巨大なマッドガードを堂々装着(22枚)画像ギャラリーコストダウンという、身も蓋もない現実的理由
デザインや空力といった前向きな理由の一方で、単純なコストダウンという現実的な事情も見逃せない。マッドガードは部品点数としては小さいものの、前後左右で4枚必要になり、取り付け用の金具やビスも含めれば決して無視できるコストではない。原材料価格の高騰が続くなか、標準装備から外してオプション化することで、車両本体価格を少しでも抑えたいというメーカー側の思惑も透けて見える。
近年の値上げラッシュのなかで、少しでも見た目の車両価格を抑えたいという販売戦略とも合致しており、こうした地味な装備から順番に標準装備の座を追われていくのは、ある意味で自然な流れともいえる。
しかし忘れてはならないのは、マッドガードが持つ実用面での価値は、時代が変わっても何ら失われていないという点だ。雨天時に後続車へ泥や水を跳ね飛ばすことを防ぐ効果はもちろん、下回りやボディサイドへの飛び石傷を防ぐ効果も期待できる。
マッドガードの消失は、単なる一部品の仕様変更にとどまらず、デザイン性・空力性能・コストという現代の自動車開発が抱える複数の要素が交錯した結果といえるだろう。かつて当たり前だった装備がいつの間にか姿を消していく背景には、こうした静かな価値観の変化が潜んでいる。
新車購入の際には、標準装備の一覧をなんとなく眺めるだけでなく、こうした「消えた装備」にも目を向けてみると、そのクルマがどんな価値観を優先して作られたのか、少し違った角度から見えてくるかもしれない。
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