当たり前の話だが、商品はその時代のユーザーニーズに合わせて生み出される。好調に売れなければ失敗作だが、その中には「生まれてくるのが早すぎた」と思える商品もある。
21世紀に入って間もない2002年、15年前の日本車の中から、時期尚早だった車種を取り上げてみたい。
(本企画は2002年12月の時点で販売していた国産車の中から、現在は新車販売しておらず、また後継車といえるようなモデルもないクルマであり、かつ「いまこのクルマがあれば売れるかもしれない」というクルマを渡辺陽一郎氏に選んでいただきました)
文:渡辺陽一郎
■トヨタイスト 2002年5月〜2016年4月
初代イストは優れたコンパクトカーだった。2002年に発売されたが、当時としては少しサイズの大きな15インチタイヤを装着して(185/65R15)、外観をSUV風に見せていた。
プラットフォームやエンジンは初代ヴィッツと共通だが、前後の足まわりにスタビライザー(ボディの傾き方を制御する棒状のパーツ)を装着する。
後輪側はサスペンション自体にスタビライザー効果のあるトーションビームだったが、別途装着していた。乗り心地は少し硬めだったが安定性が優れ、走りが適度に機敏でバランスの良いクルマであった。
加えて内装の仕上げが上質で、シートも少し硬めながら、座り心地も快適だった。
ところが2007年に発売された2代目イストは、最初から北米のサイオンブランドで取り扱うことを前提に開発され、日本仕様も全幅が1725mmと中途半端にワイド化された。
デザインも北米向けで大味になり、エンジンは1.5Lと併せて1.8Lも用意するなど、日本市場とは相性が悪くなって人気も低迷した。
そして2008年の終盤にはリーマンショックに見舞われ、2010年の末に発売された現行ヴィッツは質感を大幅に下げてしまう。この時期のトヨタの小型車は、質感が目立って低く初代イストが懐かしく思い出された。
そして今はコンパクトなSUVが人気を得ているので、初代イストのような上質な車種があれば、注目されるだろう。上質で求めやすいトヨタ車の真髄が味わえる、最終期の傑作であった。
■ダイハツYRV 2000年8月〜2005年9月
全高が1500mmを超える当時としては少し背の高いダイハツのコンパクトカーで、これも今日の感覚でとらえればSUVの仲間に含まれそうだ。
当時のストーリアのプラットフォームを使いながら、後席の位置を後退させて足元空間を広げたから、座席の下側に燃料タンクの張り出しが飛び出してしまう。後席に座るとこの部分に踵が干渉しやすかった。
外観を見ると、ボディサイドはダブルウェッジスタイルという個性的な形状で、前後のサイドウインドーの下端に段差が付いている。これもいまひとつ熟成に欠けていたが、1.3Lターボエンジンの設定なども含めて元気の良いクルマであった。
最近のダイハツは、スズキほどではないが小型車の販売に力を入れている。トールのCMなども放映したが、ダイハツの2017年における国内販売総数の内、登録車(小型/普通車)の割合は4%程度だ。スズキの16%に比べると大幅に少ない。
この状況を脱してダイハツが小型車を積極的に売るには、大量に販売されるトヨタ車とは共通化されない独自の車種が必要だ。今こそYRVのようなダイハツ専売のコンパクトなモデルが求められている。
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