ポルシェ911GT3と言えば、大きなリヤウイングがアイコンだ。
ところが、そのリヤウイングのないGT3、その名も「911GT3ツーリングパッケージ」が登場した。
価格はリヤウイング(スワンネックウイング)付きのGT3とまったく同じ、2296万円。これはアリなのか!?
文/清水草一、写真/PORSCHE
【画像ギャラリー】羽根付きは餃子だけでいい!? リヤウイングレスの「ポルシェ 911 GT3ツーリングパッケージ」を見る
■スーパーカー世代の永遠の命題「リアウイング」
911GT3ツーリングパッケージについてもう少し説明すると、固定式リヤウイングがないことと、内装がレザー仕立てであることを除けば、メカ的には通常のGT3と同じ。リヤウイングレスにより不足するダウンフォースは、内蔵式オートリアスポイラーによって確保される。
ただ、空力特性が変わったことにより、標準車と比較すると、0-100km/h加速は0.5秒(3.9秒)遅くなり、逆に最高速は2km/h(320km/h)伸びるという。
正直なところ、固定式リヤウイングのあるなしで、0-100km/h加速タイムがこんなに違ってくることに驚かされるが、最高速は2km/h伸びるというのは、かつてのランボルギーニ・カウンタックとフェラーリBBによる公称最高速争いを彷彿とさせ、スーパーカー世代にとっては感涙モノだ。
それに追い打ちをかけるのが、トランスミッションだ。どちらも6速MTと7速DCTが選べるが、通常のGT3は7速PDKが「標準」であるのに対して、ツーリングパッケージはなんと6速MTが標準。
一瞬「逆じゃ?」と思ってしまうが、速さを優先すれば、圧倒的な変速スピードを持つ7速DCTになる。一方6速MTは、絶対的な速さではなく、純粋に運転を楽しむためのもの。ツーリングパッケージとは、そんなオトナの遊び心の結晶なのだ。
■オトナの遊び心に待ったをかける「男の子」のキモチ
もちろんかつての「男の子」としては、巨大なリヤウイングには強烈な魅力を感じる。リヤウイングは力の象徴。戦国武将の兜の前立てや、徐々に巨大化したガンダムの背中の突起にも似て、性能云々を超えた力の誇示なのだから。
しかし、男も年齢を重ねるにつれ、そういった示威的なパーツよりも、能ある鷹は爪を隠す的なモノに、オトナの魅力みたいなものを感じるようになる。
このあたりのアンビバレンツな想いは、フェラーリ崇拝者である私(清水草一)も同じだ。
フェラーリは伝統的にリヤウイングを持たない。それはフェラーリ創業者であるエンツォ・フェラーリの、「私のクルマは美しくなければならない」という哲学に基いている。
無粋なリヤウイングに頼らずとも、フェラーリはその美しいボディを、他のどんなマシンよりも速く走らせる! というのがテーゼだった。実際にはそうはいかなかったわけですが、それがフェラーリのやせ我慢であり、リヤウイングレスの美学なのである。
ところがそんな私も、F40のリヤウイングを見るとメロメロになってしまう。これぞ美の暴力とでも申しましょうか。この世にF40以上にカッコいいクルマは存在しない! 美しさよりカッコよさだよネ! みたいな方へ気持ちが流れる。
国産スポーツでは、シビック(現行モデル)が好例だ。タイプRの超戦闘的なエアロ、特に巨大なリヤウイングには惹かれるが、控えめな通常のシビックハッチバックのルックスにもそそられる。
ツンデレと言うか、武闘派が存在するからこそ穏健派が際立つとでも申しましょうか。最終的には「どっちも欲しい!」になってしまう。
コメント
コメントの使い方