2019年に発表され、日本では2020年4月に初公開されたマクラーレンの最新ロードスター「エルバ」。その特徴は見てのとおりフロントスクリーンを持たない往年のレーシングカーのような斬新なスタイリングだ。
販売台数は世界限定149台というエルバ。この先進的スタイルを持つスーパーカーはどのようなクルマで、フロントスクリーンのない走りとはいったいどういうもなのか?
スーパーカー評論家として知られるモータージャーナリストの西川 淳氏が試乗チェックした!
文/西川 淳
写真/マクラーレン・オートモーティブ
【画像ギャラリー】屋根どころか窓もない!? マクラーレン エルバを徹底チェック!!
■「ルーフレス」が先鋭化して「フロントスクリーンレス」に!?
エスカレートするのが欲望の本質というものだろう。スーパーカーカテゴリーとは、「人とは違う」ことが最も重要なマーケットである。たとえフェラーリに乗っていても同じ色、同じモデルと街中で行き交う事態はどこか切なくなってしまうものだ。
必然カタログモデルでは飽きたらなくなる。特注品や限定(数百台規模)、フューオフ(十数台規模)やワンオフ(一台きり)へと、その欲望はエスカレートしていく。経済的余裕があるかぎり。メーカーもまた、そう仕向けるよう刺激的なニューモデルを次から次へと発表する。ガンバッテ、カッテクダサイネ。
最近にわかに増えてきた特殊なモデルといえばルーフレススパイダーだろう。思いつくだけでも、マクラーレン エルバにフェラーリ モンツァSP1&SP2、ランボルギーニ シアンロードスター、ベントレー マリナーバカラル、アストンマーティン V12スピードスター、という具合だ。
ハイエンドブランドがこぞって屋根なしスパイダーを登場させた。なかでもエルバやモンツァSP1&SP2に至ってはフロントスクリーンさえ備わっていない。
■実は「屋根なし」こそが原点だ
自動車の黎明期において、むしろルーフのあるスポーツカーのほうが異端だった。戦前から1950年代くらいまでのスポーツカーといえば、即レーシングカーであった場合も多く、そもそもルーフなど必要とされていなかった。
スポーツタイプのGTオープンカーでルーフ付きが当たり前になるのは1960年代に入ってからのことだ。
逆にいうと、ルーフレスのスパイダーモデルにはその昔のレーシングカーイメージが色濃くつきまとうことになる。
その歴史においてモータースポーツが重きをなす老舗ブランド、例えばフェラーリやマクラーレンにしてみれば、ルーフレススパイダーのスタイルで活躍した自社製クラシックレーシングカーに対する思い入れが強くなって当然だろう。
結果、自らの歴史からルーフレスデザインを拝借し、最新モデルに採り入れて限定販売モデルすることで、エスカレートする一方の顧客の欲求に応えようとするわけだ。エルバやV12スピードスターは過去の名レーシングカーへのオマージュであることを隠さず、むしろ誇らしげに謳っている。
マクラーレンエルバの名前は、1960年代半ばのレースシーンを知るマニアにはおそらく馴染みの深いものだろう。ブルース・マクラーレンが設計した初期のレーシングカーは、エルバという会社で製造されていた。
現代に蘇ったエルバは、かの時代を彷彿とさせるシンプルなスポーツカースタイルを纏って登場した。ルーフはもちろん、ウィンドウスクリーンもない(現在はフロントスクリーンのオプションが追加されている)。
ベースは同じく限定車のセナだが、カーボンモノコックボディは専用デザインとなり、4L V8ツインターボのM840TRエンジンも最高出力815psにまで引き上げられた(最大トルク81.6kgm)。マクラーレン史上、最も軽量(乾燥重量1300kg以下)なオールカーボンボディのロードカーであり、その生産台数は全量でわずかに149台に限定されている。
そんな貴重なエルバのプロトタイプ3号車(XP3)が日本に持ち込まれ、これまでサーキットでの試乗機会がメディアや一部のVIPカスタマーに供されていたが、このたび伊勢のスカイラインを封鎖しての公道試乗会が開催されたので喜び勇んで参加した。
ノールーフ、ノースクリーンの化け物じみたハイパーロードカーの実力を公道で試す機会に恵まれたというわけだ。
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