日本でも受注が9月2日から始まったNSXタイプS。グローバルで350台、このうち日本では30台が生産、販売されるのだが、すでに完売している。このタイプSが現行型NSXのファイナルエディションとなったワケだ。
この「NSX タイプS」を通じて見えてくるホンダスポーツについて、かくあるべきか。実際にタイプSに試乗した渡辺敏史氏がホンダスポーツモデル戦略とNSXの系譜終焉について検証する。
文/渡辺敏史
写真/ホンダ、池之平昌信
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■あえての「タイプS」その理由とは?
発売からほぼ5年という短いモデルライフとなった第二世代のNSX。その最後を飾るタイプSは、米加の北米向け320台は予約開始後1日で完売。そして日本割当の30台についても先日、完売が正式に発表された。
その希少なモデルに触れることができたのは9月末のこと。最終確認や今後の品質維持目的に社内のみで使われるのだろう、米オハイオのPMC=パフォーマンス・マニュファクチュアリング・センターから届けられたばかりのそれはシリアルナンバーも持たないアキュラ版とホンダ版の2台。もちろんパフォーマンスに違いはない。
本来なら開発担当者がアメリカに赴いてチェックができればよかったのだろうが、このコロナ禍ではむしろ人員の移動がままならない。聞けば開発の時程的に、独ニュルブルクリンクを走り込むこともできなかったという。とはいえ、第二世代最後のNSXがタイプRでなくタイプSである理由と、この1〜2年の不可抗力的な開発環境とはまったく関係ない。試乗して素性を確認した今は、自信をもってそう断言できる。
■スパルタンさが光る第一世代の栄光
第一世代のNSXにタイプRが追加されたのは1992年のこと。ドライバー中心の扱いやすいミドシップスポーツという今に続くNSXの核心は、当時のスーパースポーツに憧れるユーザーたちとの間に乖離を生んでもいた。
それを引き出せるスキルのないドライバーには扱う資格はないというクルマの側を主とする考えは、ことスポーツカー的な価値軸においては当時の大勢を占めていたわけで、むしろNSXの側がイノベーターだったとも言える。
が、ホンダの開発陣としては、持てる運動性能を最大限に引き出したNSXを世に知らしめたいという想いもあっただろう。マーケティング的にもF1での常勝イメージを纏ったNSXの登場は歓迎すべきものだったはずだ。
そういう背景のもとに生まれたタイプRは、各部ムービングパーツがバランス取りされたエンジンに引き締められたサス、エアコンやオーディオをオプション扱いとしたうえで、レカロのフルバケやエアバッグレスのモモステアリングなど走りのエクイップメントを奢ることによる軽量化などを組み合わせて、走りのイメージを一新したモデルだ。
奇しくもポルシェはカスタマー参戦対象のワンメイクレース向け911のエンジニアリングをフィードバックした911カレラRSをリリース、両車ともに登場のタイミングやその方向性が一致していたこともあり、ことあるごとに比較される対象となったことが、NSXのスポーツイメージにプラスに働いたことは間違いない。
幸運にも双方に触れる機会はあったが、とにかく真面目に速さを突き詰めた潔さからくるピリピリした刺激的な気持ちよさの一方、生半可な入力では荷重移動もままならない、スパルタンなクルマだったことを鮮明に覚えている。
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