NSXタイプS試乗から見えてきたこれからのホンダスポーツとは

■「扱いやすさ」への原点帰りがタイプSを産んだ

 その後、第一世代のマイナーチェンジを迎えてタイプRのコンセプトは枝分かれすることになる。若干ストリート寄りの快適性や柔軟性も意識したワインディングベストのタイプS、対してタイプRにも勝ろうという勢いのサーキットベストを狙ったタイプS Zeroと、3.2L化によって向上した動力性能を活かせるふたつの側面を束ねたグレードがタイプSということになったわけだ。

 そして第一世代の集大成となったのが、02年のビッグマイナーチェンジで新たに設定されたNSX−Rだ。わざわざタイプRを名乗らない、こういうあたりに歴史を紡ぎきれないホンダの弱みがみてとれる気もするが、そのパフォーマンスは完全にトラック向けで、ギチギチに締め上げられた足回りに専用スペックのタイヤからなる乗り味は、公道を走るのにひたすら苦痛だった。

 とどめに当時用意されていた広報車の1台はクーラーもラジオもなく、現地で展示でもした時に手に入れたのだろうか、「鈴鹿8耐」と書かれたうちわが車内に気休めに置かれていたのがまったく笑えなかったことを思い出す。

クラブマンスポーツとして存在したタイプS Zeroに対してさらに空力を突き詰め誕生した「NSX-R」。3.5L以下のNAスポーツカーとしては破格の性能を誇った
クラブマンスポーツとして存在したタイプS Zeroに対してさらに空力を突き詰め誕生した「NSX-R」。3.5L以下のNAスポーツカーとしては破格の性能を誇った

 そこまでしてでも、何が何でも勝ちにいく、その想いはニュルブルクリンク·ノルドシュライフェの8分切り(7分56秒)という悲願を果たして成就する。GT3カテゴリーによるレースが盛んな今ならまだしも、戦う場所がスーパーGTくらいしかなかった当時、素の性能を可視化できる数少ない場所での破格の数字は、第1世代のNSXを漢だと世に認めさせることになった。

 そのいっぽうで、いつしかドライバー中心の扱いやすい……というコンセプトはどこかに追いやられていた感もある。

■第二世代不振の理由

 V6ミドシップの継承か、いやV10FRベースSH−AWDか……と、第一世代の終焉と相前後してコンセプトが紆余曲折した第二世代のNSXは、V6ミドシップに3つのモーターを組み合わせて前輪を電動でアクティブベクタリングするという前人未到のメカニズムを携えて、16年にデビューしたのはご存じのとおりだ。

 が、当初は02年に登場した最終型NSX−Rの約2倍という価格にまず不満があがった。

リーマンショックの影響でV10 FRの「HSV-010」が販売されず、量産計画が頓挫してから幾年。先進技術てんこ盛りのハイブリッドスーパースポーツとしてNSXは蘇った
リーマンショックの影響でV10 FRの「HSV-010」が販売されず、量産計画が頓挫してから幾年。先進技術てんこ盛りのハイブリッドスーパースポーツとしてNSXは蘇った

 その15年近くの間に、世界の主要国は経済発展とともに賃金水準も高まり、それに比例してこの手の嗜好品の価格もうなぎ登りにとなった。フェラーリでいえば360モデナと488GTBの各々の販売価格を比べてみれば、1.5倍以上の差がある。と、考えると世界的にみて第二世代のNSXの価格は暴利を疑われるようなものではなかったと思う。

 むしろこの価格帯のクルマを売るに必要なホスピタリティが確保できていなかったことが、NSXの販売不振に繋がっているのではないかと思うが、これは程度の差こそあれ、AMG GTを擁するメルセデスや、R8 を擁するアウディも同質の悩みを抱えているはずだ。

 餅は餅屋ではないが、たとえ性能的に同格のものが作れたとしても、もはやゼネラルブランドにイメージの面でこの手のクルマを売るのは難しい。元も子もない話だが、スーパーカービジネスはそこまでさまざまなことが求められるようになっている。

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