どんなに気を付けていてもクルマに乗っている限り、完全には防げないパンク。そんなもしもの時を想定し、クルマにはスペアタイヤが搭載されているのが常だった。しかし、現在ではトレンドに大きな変化が見られ、スペアタイヤを省略し、パンク修理材の搭載で代用する車種も急増。
とはいえ、「パンクに対処する何らかの装備」が搭載されているのが現状だが、果たしてスペアタイヤなどは装備が義務化されているものなのか? 身近なタイヤの意外に知られていない実情と歴史・トレンドに迫ります。
文/諸星陽一、写真/Adobe Stock(メイン:fusssergei@Adobe Stock)、編集部
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みなさんは、スペアタイヤを使ったことがあるだろうか? 2022年には59歳になる筆者はかれこれ40年ほどクルマに乗っているが、スペアタイヤを使ったことがあるのはそれこそ10代か20代のはじめのころチューブタイヤの時代に1回か2回で、チューブレスタイヤになってからはスペアタイヤを使った経験はない。
もちろん、パンクは何度も経験しているが、スペアタイヤを使うほどの重大なトラブルが発生した経験はない。チューブタイヤはチューブに穴が開くと、あっという間に空気が抜けてしまうが、チューブレスタイヤはゆっくりと空気が抜けていくため、釘などが刺さったとしても空気を入れつつタイヤショップにたどりつけばパンク修理が可能だ。
スペアタイヤは万が一のために用意されているもので、使わない可能性も高いパーツだ。クルマにスペアタイヤを積んでおくことは、ラゲッジルームの容量を圧迫するとともに、重量増によるエネルギーの無駄づかい、さらには廃車時には未使用のスペアタイヤを廃棄するという事態も発生する。そうした背景を受けて、自動車メーカーはさまざまな手法を模索してきた。
まず、最初に行ったのはスペアタイヤのサイズを小さなものにすることだった。かつてのスペアタイヤは装着タイヤと同サイズ(グランドタイヤと呼ばれる)であったが、これをテンポラリータイヤ(テンパータイヤ)というタイプに置き換える。最初にテンパータイヤが装着されたのは1981年に発売されたスカイライン5ドアハッチバック。このスカイライン5ドアハッチバックのテンパータイヤには、空気圧センサーも装備されていた。
テンパータイヤ全盛時代は20年近くにわたって続くが、やがてテンパータイヤすら搭載せずにパンク修理剤とエアコンプレッサーを搭載、もしくはパンクしてもある程度の距離が走れるランフラットタイヤを採用するクルマが増えてくる。
この背景には1999年に日本自動車工業会と日本自動車タイヤ協会が「スペアタイヤレス車両のガイドライン」を作成、国土交通省に提出し、スペアタイヤレス化を推し進める方向に動いたのだ。これは非常にエポックメイキングな出来事だといえる。日本自動車工業会だけでなく、日本自動車タイヤ協会がこのスペアタイヤレスに賛同しているのだ。単純に考えれば、スペアタイヤ分の売り上げを捨てる方向にタイヤメーカーの業界団体が舵を切ったのだ。
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