初代は「天才タマゴ」というキャッチコピーが付けられ、常に未来的なコンセプトを守りつつ販売を続けたエスティマ。2019年に生産を終了してから、その後継車は登場していない。
アルファードやノア・ヴォクシーといった大人気ミニバンがあるトヨタだが、現在もエスティマにこだわり、エスティマへ思いを馳せるユーザーが多くいる。これほどまでに愛されるエスティマの魅力と、後継車種が登場しない現状を考えていく。
文:佐々木 亘
画像:TOYOTA
■MRからFFへ!ちょうどいいクルマを探し求めたエスティマの道程
1990年に登場したエスティマは、非常に珍しいアンダーフロア型ミッドシップレイアウトが採用された。ミッドシップはスポーツカーのもの、車内が狭く乗用車には向かないと言われた前評判を覆し、十分な室内空間と、ミッドシップならではの軽快なハンドリングが特徴的なクルマとなる。
しかし、5ナンバーサイズの乗用車が主流だった当時、エスティマは大きすぎた。価格も高価で、敬遠され気味だったことから、5ナンバー枠に収め、価格も抑えたエミーナ・ルシーダを登場させる。
エミーナ・ルシーダは、ユーザーの「ちょうどいい」に応えたものの、小さくなったことで発生した弊害もあった。足元スペースの狭さや乗り味の変化が、エスティマ本来のものとは大きく異なり、「天才タマゴ」を感じにくい。
現在でもファンの多いMRのエスティマは、令和の今乗っても、ミニバンの中で群を抜いたハンドリングの良さを感じることができる。しかし、このコンセプトを守りながら、ライバルに続くことはできなかった。時代に合わせた「ちょうどいい」を探し求めて、エスティマはFFのパッケージングへ、大きく転換していく。
■一度乗ればわかる、箱ではないことの良さ
ミニバンといえばアルファードに代表されるラージサイズの箱型や、ミドルサイズのノア・ヴォクシーが真っ先に思いつくだろう。室内は広々で、大人が足を伸ばしてくつろぐスペースがあり、移動車としては最適な選択だと思う。
一方で、空気抵抗を大きく受ける四角いボディと大きな車重が、走りの性能を犠牲にしている。ミニバンに走りを求める場合は、かつてのウィッシュやストリームといった、流線形で背の低いクルマを選べばよいが、これでは室内空間を犠牲にすることとなってしまう。
十分な室内空間を作り出しながらも、流麗なボディラインを作り出す。ミニバンの中庸的存在がエスティマだった。他のミニバンと比べて、運転姿勢はセダン寄りであり、ハンドリングに対してのボディ追従性も良く、運転していて楽しいクルマに仕上がっているのだ。
筆者が営業マンだった当時、エスティマは試乗してもらえれば売れるクルマの代表格だった。家族内で希望車種の意見が食い違っているときにも、エスティマに乗せると、ほとんどの問題が解決できる。
2列目以降に乗る、家族の居住性はしっかりと確保したまま、メインドライバーの運転に対する心地よさも備えているのだ。プリウスαだ、アルファードだと揉めている家族には、エスティマという処方箋を書いてあげると、いざこざが収まる。
聞くだけ、見るだけではわからない。エスティマの魅力は、乗ることで初めてわかるのだ。
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