2024年3月22日、全日本トラック協会(全ト協)が「多重下請構造のあり方に関する提言」を公表し、「下請けは2次まで」とする制限や、運賃・帰り荷の考え方などを提言した。
トラックドライバーの賃上げのため、運送業の商慣行を見直すことは政府の「物流革新に向けた政策パッケージ」にも明記されており、全ト協は今後、国土交通省を始め行政の施策に反映されるよう要請を行なうことにしている。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部
図・表/公益社団法人 全日本トラック協会
「多重下請」の見直しに向けた検討会
いわゆる「物流の2024年問題」を抱えたまま、トラックドライバーの働き方改革が適用される2024年4月1日まで秒読みが始まっている。そんな中、全ト協が「多重下請構造のあり方に関する提言」をまとめた。
かねてより問題視されながら具体的な対策が無かった「多重下請構造」について、運送業全体で「2次下請まで」とした提言が注目されるが、他にも「運賃・手数料」「帰り荷」「規制的な措置」「利用運送会社のトラック協会への入会」「周知・徹底」などの考え方を示している。
そもそも2024年問題とは、ドライバー職に働き方改革関連法が適用されることで従来通りの働き方ができなくなり、物流の担い手が足りず日本が輸送力不足に陥ってしまうという問題である。
この問題に対して政府は、2023年に「物流革新に向けた政策パッケージ」を取りまとめ、「商慣行の見直し」「物流の効率化」「荷主・消費者の行動変容」などの施策を挙げている。
中でも「商慣行の見直し」においては、実運送事業者が適正な運賃を収受し、トラックドライバーの賃金アップを実現するため、元請事業者が実運送事業者を把握できるよう管理簿の作成を義務付けることなど、物流の多重下請構造の是正に向けて規制的措置を法制化することが明記された。
(2024年2月13日に関連法案が閣議決定され、国会に提出されている)
これまで多重下請への対応策を見出せなかった背景として、実態が把握できていないからという指摘があり、全ト協は坂本会長の諮問機関として「多重下請構造のあり方検討会」を設置し利用運送の実態を把握するとともに、実運送事業者の意見を集約するなど、運送業のあり方について検討を重ねてきた。
そしてこの度、検討会として提言を取りまとめたという次第である。なお全ト協は、この提言を坂本会長に答申するとともに、これをもとに国土交通省における各種施策に反映されるよう要請を行なうことにしている。
実運送事業者は「2次下請まで」
日本の運送業が多重下請構造から抜け出せなくなった要因の一つに、「水屋」と総称される利用運送会社や取次事業者の存在がある(車両を保有せず、実際に荷物を見ることがないので「見ず屋」ともいう)。
求貨・求車のマッチングサービスなども水屋に分類されるため一概に「水屋が悪い」とは言い切れないのだが、荷主の支払う運賃から中間業者が手数料を差し引いて、残りを実運送会社の取り分とすることが多い日本の商慣行では、水屋が多いほど実運送会社の売上やドライバーの賃金は低くなる。
荷物の横流しにより利益を得ている悪質な水屋も多く、実運送会社に支払われる運賃を向上するには下請に出す利用運送に制限を設ける必要があった(水屋仕事を運賃に上乗せ、または別建てとする諸外国では、荷主側に中間業者を排除するインセンティブが働く)。
提言では、大手運送事業者だけでなく中小事業者を含めたトラック運送業界全体として「2次下請までと制限すべきである」とした。これにより多重下請構造の解消を図るだけでなく、荷主や元請が実運送事業者の実態を容易に把握することができるとした。
この制限により水屋は、元請とならない限り直接協力会社までの依頼となる。運送会社が元請の場合、実運送会社は直接協力会社(1次下請)の下請け(2次下請)まで、同じく運送会社が1次下請の場合は、直接協力会社(2次下請)までとなる(図を参照)。