スーパーカブシリーズは、初期型が発売された1958年以来、世界160カ国以上で販売され続け、2017年にはついに世界生産累計1億台という、マンガちっくなまでの大記録を打ち立てた。このバイクを知らないライダーは、地球上にほぼ存在しないと言ってもよい世界一メジャーな二輪車だ。数あるカブのなかでも、至高のカブというべきC125に試乗した。
スーパーカブ・シリーズの最高峰
スーパーカブC125は、2017年の東京モーターサイクルショーで発表され、翌2018年に衝撃のデビューを飾ったホンダの世界戦略モデル。空冷単気筒123ccエンジンを搭載し、最新装備をまとったスーパーカブ・シリーズのカッティングエッジでありながらも、初代スーパーカブC100のレトロなおもかげを色濃く残す、スーパーカブのヒストリーを象徴するマシンだ。
とかなんとか、あおり立ててみたところでスーパーカブはスーパーカブ。昭和の大昔、蕎麦屋さんがざるそば片手に(違反だけど)町を走り回っていた頃のゆるゆる走りをきっちり継承し、C125もまた、近所の町をゆるゆる走るスーパーカブの一族であることに変わりはない。
扱いやすくパワフル、低燃費、そして頑丈っぽいエンジン
エンジンはなめらかで力強い。走り出してすぐにぽんぽんシフトアップし、高めのギアで町を走り回るぶんには、音も振動もよく抑えられていて、すべてがジェントルだ。ただ、低めのギアでパカッと全開にしてキッチリ回すと、意外とスポーティなスロットルレスポンスとパワーフィールが楽しめ、他のホンダのレジャー系125クラスと比べても遜色ない面白さだ。もともと回して楽しむバイクじゃないからコレはオマケみたいなものかもしれないが、走りを愛するライダーにとっては、見逃せない魅力的なオマケだともいえる。
0→60km/h加速テストの結果は平均7.1秒。街乗りには十分な加速力だが、スポーツバイクのような鋭い出足はない。スロットルを開くと、ゆるゆるふわーんと走り出し、だんだん速度が乗っていく。ローギアからシフトアップすると、2速が吹け切る直前で60km/hに到達する。
スーパーカブのシーソー式シフトペダルは、前を踏めばアップ、後ろを踏めばダウン。クラッチは自動だから左グリップにレバーはない。カタログの変速機形式欄には、「常時噛合式4段リターン (※停止中のみロータリー)」みたいな表記がある。「カブはロータリー式だろ」と思っている人が読むと混乱するかもしれないが、ようするに「走ってるときには、4速からいきなりニュートラルにぶっ込まれたりしない安全対策済みの上等な4速ロータリー」だと思っておけば、感覚的には大間違いではない。
ちなみにトップギア4速からゼロ発進してみると、ひときわゆるゆる加速し、約17秒かかって60km/hに到達した。
さすがに走り出しには息苦しさがあるものの、フル加速+約10秒だったら、後ろから罵声やクラクションを浴びせられるほど遅いわけじゃない。信号停止後、うっかり4速のまま発進してしまったら、焦ってシフトダウンしようとパニクるより、じわっと4速のまま加速したほうが安全な場合もありそうだ。とてつもなくギアがワイドで、ギアポジションをほぼ気にせず走れるところは、いかにもスーパーカブらしい。
カタログ記載のWMTCモード燃費は67.8km/ℓ。今回は実測しなかったが、筆者の豊富な経験では、ロングツーリングだと少しくらい雑な運転をしても、WMTCモード燃費と実走燃費の差はごくわずかだ。多少ズレがあっても、大のオトナが財布を気にするほどのガソリン代の違いにはならないだろう。
ただしフューエルメーターは、だいぶ早めにエンプティ表示になる。テスト時には、全6目盛りのうち最後の目盛りが点滅しはじめてから給油したが、2.6ℓしか入らなかった。タンク容量が3.7ℓなので、約30%のガソリンを残した状態でガス欠最終警告のピコピコ点滅が始まった計算になる。
ついでにエンジンの頑丈さについても書いておきたいところだが、これまでのスーパーカブ・シリーズをみる限りコイツも頑丈だろうとは思うものの、さすがにエンジンがぶっ壊れるまで乗り回して調べるわけにもいかず、検証できていない。いずれはエンジンのどこかがちょこっと壊れたとかいう報告もぼちぼち上がってくるはずだから、あと20年くらい気長に続報を待ってもらいたい。
軽快なのにヨレない走り
スーパーカブ C125のフレームは、スーパーカブ110をベースに専用チューニングを施したもの。サスストロークも110よりゆったり確保されているので、ちょっとくらいハードなコーナリングをしてもヨレたり腰くだけにならず、キモチよく曲がれる。
路地の曲がり角やUターンくらいなら、スコンとフロントを切れ込ませ、自転車レベルのイージーさで超カンタンに曲がれるのは従来のスーパーカブ・シリーズ各車と同じ。だが幹線路の交差点レベルまでターンスピードをあげると、フロントにねっとり粘りが出てハンドリングが落ち着いてくる。ゆったり上品なコーナリングで、実用車の枠を越えた贅沢な乗り味が楽しめる。
よく止まるけどよく鳴く
C125のブレーキはフロントが油圧式ディスク、リアがドラム式だ。フロントにのみABSがついている。
フロントでガツンとフルブレーキングするとABSが作動し、ゴツゴツとキックバックが返ってくる。これはだいたいどのバイクにもみられる現象だが、C125の場合、フロントタイヤがかなりデカい音でキャンキャン鳴く。どんなに鳴いてもABSは作動してるので、音にビビらず全力でレバーを握りまくれば、緊急時にも安全に停まれるが、初体験だとびっくりするだろう。ガチリアルのパニックブレーキを強いられる前に、安全な場所で一度はABSのフィーリングを確認しておきたい。
リアブレーキにはABSが装備されていない。ペダルを一気に踏み抜くと、当然ながらキャンキャン鳴いてすぐロックする。乗車姿勢が正しく、路面状況がよければ、それだけで転ぶリスクはほぼないが、一般的なスポーツバイクに比べると、滑りはじめに粘り感がなく、ロック時のヨー軸スタビリティもやや低めだ。路面が悪いときは、リアブレーキは慎重に。
真夏、ドライのアスファルト上でフロントのみフル制動すると、60km/hからの停止距離は約10mだった。リアブレーキを併用すると、筆者の技術的バラつきのため制動距離にもバラつきが出るものの、おおむね50cm短い9m50cm前後で停止できた。ひじょうに安定してよく止まる。
とはいえ、これは制動距離のテストで停止距離ではない。リスク発見から制動開始までの空走距離が含まれていないので「60km/hなら10mやそこらで停まれちゃう」とは思わないように。ブレーキ性能を過信せず、この4倍以上の車間距離をとって走るべきなのはいうまでもない。
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