自動車は様々な部品を組み合わせて1台として成り立っているが、そういった各部品の呼び名には横文字が多い気がする。元々どこの国の単語なのか探りを入れてみると、浮き上がってきたのは“あの国”の言葉だった!?
文・写真:中山修一
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■バスをバラして部品の点呼!!
まず、ごく平均的な大型路線バス車両をイメージして、車両本体を構成する主な部品・装置・機器類の名称を書き出してみよう。
中には横文字(カタカナ語)と縦文字(漢字ひらがな語)を、状況に応じて両方使い分けるものもあるが、ここでは先に思い浮かんだ方を選んだ。
【横文字勢】
アクセル、アンテナ、ウインカー、エアコン、エンジン、ギアボックス、クラクション、クラッチ、サイドミラー、サイドブレーキ、サスペンション、シートベルト、シフトレバー、シャシー(シャーシ)
ステップ、タイヤ、テールライト、ドア、ハンドル、バス、バンパー、ブレーキ、フロントガラス、ヘッドライト、ホイール、ボディ、リアガラス、ワイパー
【縦文字勢】
行先表示器、運賃箱、運賃表示器、換気扇、座席、室内灯、車内放送機器、整理券発行器、掴み棒、吊り革、取っ手、非常口、(車体横の)窓、読取器
【縦横ハイブリッド】
降車ボタン、非常コック
……もちろん自動車の構成部品はもっと沢山あるが、全部書き出すと大変なことになるので、このあたりに留めておこう。
■果たしてカタカナ語の出処は!?
横文字28、縦14、ハイブリッド2の、合わせて44単語をピックアップした。自動車は西洋で発明された道具ということで、やはり横文字勢(カタカナ語)が多かった。
では、それらカタカナ語が元々どこの国地域の言葉だったかを洗い出してみると、26/28単語がすぐに英語であると目星を付けられる。
「ハンドル」「フロントガラス」「サイドブレーキ」などは、元々外国語だったのが日本で独り歩きを始めて広く使われるようになった、和製外来語に数えられる。それでも出自の部分だけ見るならいずれも英語だ。
■ひょっとしてドイツ語?
書き出した部品名に非英語のカタカナ語は全く含まれていないのか…ちょっと気に掛かるものが2点ある。まずは日本語で方向指示器を表す「ウインカー」だ。
アルファベットで書くと“Winker”。とりわけアメリカ英語では同じ部品のことを「ブリンカー(Blinker)」と呼ぶのが一般的であるため、よく和製英語の枠組みに入れられている。
ただしイギリス英語においては、方向指示器の総称をウインカーと表現する場合もなくはないようで、完全な和製英語とは言い切れない。
結局のところウインカーも英語では? と素直に行きたいところであるが、実はドイツ語でも初期の腕木式方向指示器のことを“Winker”と書くのだ。結論付けるのに少し回り道をしないといけない。
問題は日本語のウインカーがイギリス英語・ドイツ語どちらのWinkerから取られたのか、という点だ。
文献を元に歴史を遡ってみると、まず戦前の日本ではあくまで「方向指示器」であり、カタカナ書きした文献資料はほとんど見つからなかった。
方向指示器が世界で普及し始めたのは1930年代で、ウインカーの表現が定着したのは戦後ということになりそうだ。
1950年代の自動車関係の趣味雑誌や技術教本を開くと、「英語のウインクのこと」や、「英語のダイレクションインディケーター(Direction indicator)の別の呼び方」のように、英語表現の一種として紹介している。
また、Winkerの発音に注目すると、英語ではウィンカーなのに対してドイツ語だとヴィンカーが近い。
方向指示器だけドイツから伝わり、ドイツ語のヴィンカーが短期間でなまってウインカーになったとは考えづらいため、やはりウインカーも英語と見て良さそうだ。