2017年12月にトヨタが「2030年には電動車の販売を1年間で550万台以上、EV(電気自動車)、FCV(燃料電池車)は100万台以上をめざす」と発表した。
2016年のトヨタの世界販売台数は1017万台だから、12年後にはトヨタ車の過半数が「電動車」になるわけだ。「電動車」というとEV、PHVをイメージする。では、ハイブリッドはどうなるのか。
「電動車」の定義にこそ、発表の実現度を占う鍵がある。
文:渡辺陽一郎/写真:TOYOTA
トヨタが掲げる“電動車”の大半は「ハイブリッド車」
今回トヨタが発表した「電動車」の内訳は、EVとFCVを合計して100万台としているから、残りの450万台がHV(ハイブリッド)とPHV(プラグインハイブリッド)になる。
ちなみに、現在のトヨタの電動車は1年間に約150万台が販売され、この大多数をHVが占める。
今後12~13年で、HVの販売台数を3倍の450万台に増やし、これにEVとFCVの100万台も加えるから、トヨタ車の品ぞろえを変革させないと実現不可能にも思える。
トヨタ車の過半数が電動車は日本ではほぼ実現済み
計画の行方を知る手段のひとつが国内の販売状況だ。2016年のトヨタは世界販売台数の83%を海外で売って国内比率は17%。「日本はオマケの市場」になりつつある。
ところがHVを始めとする電動車では、国内比率が意外なほど高い。トヨタは2016年に世界で140万台のHVを販売し、この内の約68万台、つまり49%は日本で売ったからだ。
これは先進的な商品開発に関しては、トヨタにとって今でも日本が大切な市場であることを示している。『日本で試して、自信を付けたら海外でも売る』パターンだ。
つまり「トヨタ車の過半数が電動車」という目標は、日本国内ではほぼ実現されている。この手法を海外に当てはめて「世界の過半数」をめざすのが今後の課題だ。
『日本から海外へ』トヨタが過去にも採った戦略
過去を振り返るとトヨタは、いろいろなチャレンジをこの方法で成功させてきた。
レクサスも同様だ。北米における日本車は、トヨタのブランドイメージも含めて「低燃費で価格が安く故障が少ない」というものだった。これでは高級車を売れないから、1989年にレクサスを立ち上げた。
ただしそのコンセプトは、上質な商品とサービスを提供するという当たり前の内容だった。
具体的には車両のデザインや性能が優れている、顧客の注文に忠実に対応する、点検などの納期を守る、日頃の入念な整備によって数年後に高値で売却できる、といったものだ。日本のトヨタ店やトヨペット店で磨かれたサービスを、名称を変えて海外に転用したのがレクサスだった。
電動車も同じ方式で普及させていく。その前段階に行うのが、2025年(7年後)までに電動を一切使わない車種をゼロにするものだ。
この点も日本国内ではおおむね達成されている。トヨタ車の内、ダイハツが供給するOEMの軽自動車やルーミー&タンク、スバルが製造する86などを除くと、モーターを搭載しない車種は少数に限られるからだ。ポルテ&スペイド、プレミオ&アリオン、ランドクルーザー程度になる。
86やランクル、電動化の課題となりそうな車種はどうなる?
これらの内でランドクルーザー(特に日本で売られない70)は、極悪路における優れた走破力により、地域によっては生活する上で不可欠な移動手段とされる。
従ってHV化が難しいが、そのほかは大半の車種にHVの設定が可能だ。86をHVにするのは、レイアウト全体を見直す必要があってフルモデルチェンジを行わないと難しいが、スバル製だから問題ない。
従って2025年までに、トヨタの乗用全車にHVが用意されそうだが、前述のランドクルーザーなどは融通を付ける。HV仕様がどこかの地域で売られていれば、同じ車種のノーマルエンジン車だけを供給する地域(HVを売らない地域)があっても構わない考え方だ。
ガソリンの質が悪い地域も多く、地球上のどこでもHVを使えるわけではない。あまり厳密に考えると、車を供給できない地域が生じて逆効果になってしまう。
以上のような緩やかな解釈であれば、2025年に電動車を一切用意しないトヨタ車をなくすことは可能だ。一連のトヨタの計画は、大それたものではない。
ハイブリッドの比率は今後さらに増える
気になるのは今後のバリエーション展開だが、あまり大きく変わらない。先に述べたようにHVとPHVで450万台、EVとFCVは100万台だから、従来と同じくHVが中心だ。
例えば、日本のヴォクシー&ノアやヴェルファイア&アルファードであれば、量産効果が進んでHVが割安になり、ノーマルエンジン車の比率が減るという具合に発展していく。メカニズムも、基本的には今日のTHSIIを洗練させながら進化させる。
PHVは価格を下げないと普及が難しい。今のプリウスPHVは、HVのプリウスに比べると、装備の違いを補正しても約70万円高い。
価格差がこれだけあると、PHVがガソリンを一切使わず充電された電気だけで効率良く走っても、走行コストで70万円の差額を取り戻すには約27万kmの走行を要する。HVとPHVの価格差を30万円以内に収めないと、普及させるのは難しい。
逆に20万円程度で充電機能が加われば、充電設備を設置しやすい一戸建てのユーザーや営業車に使う法人などに普及していく。
『先を急がないでほしい』EVの未来
結論をいえば、ビックリするような変化は訪れない。今に比べてHVの比率は増えるが、エンジンは搭載されている。トヨタもEVを手掛けるが、その比率は低い。
世の中のすべての車がエンジンを搭載しない純粋なEVになる時代がくるとすれば、もっと先の話になる。自動運転も同様だ。
あまり期待しすぎると、2020年、2030年、2040年になった時、「結局EVも自動運転もダメだった。実現するのは無理」という諦めた論調になりかねない。
この2つの技術は重要だから(特に自動運転は体に重い不自由があっても自分1人で車を操れる)、必ず、絶対に実現させねばならない。
だから先を急がないで欲しい。今の世間やマスコミの論調は、大切な技術の芽を無造作に摘み取る結果を招きそうで、とても恐ろしいと思う。