■クルマの価値観による売れ行きの変化
クラウンをSUVに変更した場合、大幅に路線を変える理由は販売の低下だ。
過去を振り返ると、クラウンは1990年に、シリーズ全体で約20万5000台(1か月平均で1万7000台)を登録した。この実績は2020年のN-BOXやヤリスを上まわる。
しかしこの後にミニバンが売れ行きを伸ばし、日本市場において「セダン離れ」が進んだ。クラウンの2000年の登録台数は約10万1000台(1か月平均で8400台)だから10年間で半減した計算になる。
2010年には国内で売られた新車の35%を軽自動車が占めて、コンパクトカーも増えたから、セダンの売れ行きは一層下がった。クラウンの登録台数も、2010年には約4万1000台(1か月平均で3400台)となった。
2012年に登場した14代目クラウンでは、直列4気筒2.5Lハイブリッドが搭載され、売れ行きが若干上向いた。2015年は約4万4000台(1か月平均で3700台)になったが、再び下がり、2019年はコロナ禍の影響を受ける前だが約3万6000台(1か月平均で3000台)だ。
以上の販売推移から分かる通り、この30年間で、クラウンはセダンと共に売れ行きを下げ続けた。
販売台数低下の一番の理由は、ユーザーのクルマに対する価値観の変化だ。クルマが憧れの高額商品だった時代には、居住空間の後部にトランクスペースを備えるセダンが人気を高めた。造形的な美しさを表現できるからだ。
ところが1990年代に入ると、エスティマやセレナなどのミニバンが急増した。所得が増えた割にクルマの価格は高まらず、憧れの高額商品から日常的なツールとして普及したからだ。女性の運転免許保有者数も増えた。男女別の推移を見ると、男性については、1990年の保有者数は1970年の1.8倍になる。ところが女性は4.8倍に急増した。
つまり1970年頃の世帯では、妻が運転免許を持っていないことも多かった。クルマは夫の持ち物で、週末に使う趣味の対象だから、カッコ良さにもこだわってセダンが好まれた。
しかし20年後の1990年には、女性の運転免許保有者は5倍近くに増えていたから、クルマは夫婦で使う。夫が乗るのは主に週末だが、妻は買い物や子供の送迎など、毎日街中を中心に運転する。
そうなると室内の広さがセダンと同等でも、全長を短く抑えられる運転のしやすい割安なコンパクトカー、あるいは子供を同乗させて荷物も積みやすいスライドドアを備えたミニバンが便利に使える。たとえクルマ好きの夫はセダンが欲しくても、使用頻度の高い妻の意見が優先され、コンパクトカーやミニバンが売れ行きを伸ばした。
最近これら(コンパクトカーやミニバン)に設定されるエアロパーツ装着車が人気を高めている背景には、「ミニバンを買うなら、せめてグレードだけは僕に選ばせてくれ」という夫の悲哀があったかも知れない。
■2018年クラウンのコンセプトは..若返り
国内の販売台数をカテゴリー別に見ても、1990年の軽自動車比率は23%で、セダン(4ドアハードトップを含む)は40%に達していた。それが2010年には軽自動車が35%でコンパクトカーも増加しており、いっぽうセダンは15%に下がった。今は軽自動車が37%で、セダンは10%だ。
このセダン市場の衰退と併せて、クラウンの売れ行きも30年前の18%前後まで下がった。今のユーザーは昔からクラウンを乗り継ぐ人達が大半で、開発者によると「お客様の中心的な年齢は65~70歳」とのことであった。
そこで2018年に登場した現行クラウンは「お客様の年齢を40~50歳に若返らせたい」という想いで、コンセプトまで変えるフルモデルチェンジを実施した。
まず外観や内装はスポーティな雰囲気になり、居住空間は従来型と同様に広いため、カッコ良さと快適性を両立させた。プラットフォームはレクサスLSと共通のタイプに刷新され、走行安定性を向上させている。衝突被害軽減ブレーキなどの安全装備、疲労を抑える運転支援機能も進化した。
さらに通信機能も標準装着され、緊急時のSOS発信、エアバッグが展開した時には自動的にオペレーターが対応して消防や警察に通報する機能も備わる。 このように現行クラウンは、デザインや機能を進化させたが、その工夫が販売面で裏目に出たことも事実だ。
外観はボディ側面のウインドーを3分割してリヤゲートを寝かせ、ファストバック風に見せたが、日本ではトランクスペースがハッキリと分かる典型的なセダンが好まれる。
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