クラウンはなぜ窮地に立たされているのか!?? 国産セダン王者の軌跡と功績

■クラウンは「クラウンらしさ」が重要

 内装の質は従来と同様に高いが、インパネ中央に上下2つ並ぶ液晶パネルは、中高年齢層の評判がいま一歩だ。そこで2020年11月の改良では、タッチパネル式のエアコンスイッチを従来と同様の一般的な方式に戻した。通信機能を充実させたことも同様だ。パソコンやスマートフォンを使い慣れていれば、さほど違和感は生じないが、不慣れな場合は印象が変わる。

 運転感覚は、従来型に比べて走行安定性が向上して、峠道などでは余分な挙動が生じないので運転しやすい。走る楽しさも味わえて、危険を避ける性能が向上したメリットも大きいが、乗り心地は従来型に比べて硬く感じる。不快な粗さは抑えたが、従来型の特徴だった安楽な乗り心地は薄れた。運転感覚と乗り心地は、総じてメルセデスベンツEクラスに近付いたように感じる。

キング・オブ・国産セダン「クラウン」 人気凋落の原因と行方
現行クラウン(2018年) インパネ

 このほか以前は上級のマジェスタも用意したが、現行型のボディは1種類だ。グレードは伝統のロイヤルサルーンを廃止して、スポーティなRSを主力に据えた。

 スポーティ感覚を強めたフルモデルチェンジに関して、販売店では以下のように述べている。

 「お客様の反応はさまざま。従来型のお客様からは、随分変わったね、と言われた。乗り替えを控えられたこともある。その一方でBMWのお客様が興味を示し、2.5LハイブリッドのRSを購入されたこともあった」。

 つまり若返りを理由に購入した顧客と、見送ったケースがある。そのバランスが、現行クラウンではユーザーを増やす方向に働かなかった。

 この経緯を見ると、クラウンに最も必要なのは、多くの人達から共感を得られる「クラウンらしさ」だ。上級セダンを購入するのは、クラウンに限らず中高年齢層だから、予算にも余裕がある。クラウンが欧州車風になって本来の個性が薄れたら、本家本元のメルセデスベンツを買う。

 2020年5月以降、全国に展開するトヨタの4系列全店で、トヨタ全車を扱う体制に移行したこともクラウンの販売では不利になった。以前はクラウンのユーザーがアルファードやハリアーに乗り替える場合、販売店もトヨタ店からトヨペット店に変える必要があったが、今は全店が全車を扱うから乗り替えも簡単だ。その結果、クラウンは売れ行きをさらに下げてしまう。

■クラウン販売の成功の秘訣とは..!?

 このようにクラウンは複数の理由に基づいて販売が伸び悩むが、SUV化は慎重に考えたい。ハリアーよりも上級の豪華なSUVにすれば、車名がどうであろうと、今の市場なら好調に売れるだろう。それでも人気を長く保つには、SUV化したことで、最も大切な「クラウンらしさ」を多くの人たちが感じ取ってくれることが条件だ。

 セダンはSUVと違って重心が低く、後席とトランクスペースの間には骨格や隔壁があってボディ剛性も高めやすい。この2つの特徴は、走行安定性と乗り心地、いい換えれば安心と快適を向上させる。歴代クラウンの心地よい安心感と安楽さも、セダンボディだからこそ実現できた。

 クラウンは60年以上の歴史に支えられるクルマだが、現行型が大幅な路線変更を行ってから、2年半しか経過していない。

キング・オブ・国産セダン「クラウン」 人気凋落の原因と行方
1987年登場の8代目クラウン 伝統的な乗り心地・走行安定性にはセダンボディが不可欠である

 現行型はスポーティな方向に振りすぎて売れ行きを下げたが、そこは今後修正を加えれば良い。目指すのはクラウンの伝統的な乗り心地の良さと、優れた走行安定性を両立させることだ。それにはセダンボディが不可欠だ。

 メルセデスベンツやBMWが今でもセダンを積極的に造り続け、日本で高く評価されている理由も同じだ。欧州では日常的に高速走行の機会が多く、正確に反応する操舵感、危険回避を含めた優れた安定性、ドライバーを疲労させない快適な乗り心地やシートが安全走行のために不可欠だ。だからセダンボディを採用し続ける。

 従ってクラウンも、メルセデスベンツに近付き過ぎたクルマ造りを修正して、日本を走るセダンの価値を追求し続けて欲しい。

 販売面の配慮も大切だ。トヨタ店で、クラウンからアルファードやハリアーへの乗り替えが続くと、この流れが次第にヤリスやシエンタへ移って行く。日産やホンダを見れば分かる通り、全店が全車を扱うと、コンパクト化と低価格化が進む。

 たとえクラウンをSUV化しても、トヨタ店を中心とした販売店の理解を得て大切に売らないと、将来の人気と需要は先細りになる。

 成功の秘訣は、顧客の共感を得られるクラウンを開発して、大切に販売すること、出費に見合う満足感を提供することに尽きる。

【画像ギャラリー】やっぱり偉大でカッコいい!! 日本セダン界の先頭を走り続けてきた歴代クラウンの勇姿

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