■高齢者にとって軽自動車は必要不可欠なライフライン
以上のデータに基づくと、軽自動車普及率の高い地域では高齢化も進み、お年寄りが軽自動車を使って日常的な通院や買い物をしている。
軽自動車は生活必需品であり、ライフラインだ。
こういった切実な事情は、軽自動車の普及率と高齢化率の低い東京で生活する政治家や官僚からは見えにくい。
なお切実な状況で使われる軽自動車は、価格帯が160~180万円に達する新型のN-BOXやタントとは違う。古いワゴンRやムーヴが使われる。
つまり軽自動車の性格は福祉車両に近い。税金だけでなく、価格も安く抑える必要がある。
ところが政府は、2035年までに、新車として売られる乗用車を電動化する目標を掲げた。電動化にはハイブリッドやプラグインハイブリッドも含まれるが、モーターを使わない純粋なエンジン車は廃止される。
また、小池百合子東京都知事は、電動化(純ガソリン車の新車販売禁止)を2030年までに、前倒しで達成する方針を示した。政府が2035年までに電動化するなら、東京都は2030年に達成して一歩先を行く発想だ。
しかしこれは浅知恵だ。仮に神奈川県、千葉県、埼玉県などが2035年の実施で、東京都だけが2030年になると、2030~2035年には近隣の地域とは販売できる車種が異なってしまう。東京の政策だけが異なるために、ハイブリッドの生産規模や流通台数が中途半端に増えたり、ノーマルエンジンは減ることになる。
その結果、商品の開発、生産、流通に負担が掛かり、なおかつユーザーから見ても分かりにくい制度になる。足並みをそろえないと、さまざまな迷惑が生じて、コストもムダに高めてしまう。
小池東京都知事は、ユーザー、自動車販売店、自動車メーカーなどの意見を聞くべきだ。簡単な調査を行えば、このような浅知恵が生まれるのも防げる。
■数年後には電動化と燃費規制の実施で軽自動車の価格が高くなる..⁉
また政府や自治体の方針のほかに、2030年度燃費基準に基づく燃費規制も実施される。燃費基準の達成度合いはCAFE(企業別平均燃費方式)で判断され、この仕組みは2020年度と同じだが、基準となる燃費数値は大幅に引き上げられる。
2020年度は、車両重量が741~855kgの車両は、JC08モード燃費が24.5km/Lという具合に車両重量の枠を定めて対応する燃費数値を決めていた。それが2030年度はシームレスになり、車両重量が741kgと855kgでは、対応する燃費数値も異なる。
そしてN-BOXで売れ筋になる2WD・カスタムLの場合、車両重量は910kgで、WLTCモード燃費は21.2km/L、JC08モード燃費は27km/Lだ。910kgに相当する2020年度燃費基準はJC08モード燃費で23.7km/Lだから、27km/LのN-BOX・2WD・カスタムLは、余裕を持ってクリアできた。
ところが2030年度燃費基準では、910kgに相当する燃費基準値は、WLTCモード燃費で27.8km/L前後だ。N-BOX・2WD・カスタムLのWLTCモード燃費は21.2km/Lだから、燃費数値を31%向上させねばならない。
現時点で軽自動車に使われる電動技術には、マイルドハイブリッドがある。
モーター機能付き発電機と小さなリチウムイオン電池を搭載して、前者が減速時の発電、アイドリングストップ後の再始動、エンジン駆動の支援を行う。
マイルドハイブリッドの正味価格は約9万円と安いが、ノーマルエンジンと比べた時の燃費向上率も3~6%と小さい。前述の31%を向上させるには、本格的なストロングハイブリッドが必要だ。
ただしストロングハイブリッドは価格が高い。ノーマルエンジンとの差額を小さく抑えた車種としてフィットのe:HEVがあるが、この価格差はフィット「ホーム」同士の比較で約35万円だ。N-BOX・2WD・カスタムLの価格は176万9900円だから、ストロングハイブリッドになって35万円高まれば約212万円に達する。
N-BOX・2WD・カスタムLがストロングハイブリッドになると、WLTCモード燃費も約35%向上して28.5km/Lくらいに達するが、価格も35万円高まると、軽自動車として成立させるのは難しい。
そして新車価格の上昇は中古車価格も押し上げるから、数年後には、年金で生活する高齢者のライフラインや生活権を奪う心配も生じる。
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