■相対的な所得の低下が大きな原因か
トヨタ自動車の1台あたりの平均販売価格は、1990年代には200~250万円だったが、2000年代には250万円を超え、2015年以降は300万円を突破した。各社は必死にコスト削減努力をしているが、原材料価格はすべてグローバル基準で決まるので、日本でだけ安くクルマを売ることは不可能である。
先ほど、日本人の平均年収は300万円台だと説明したが、300万円台の収入しかないのに、1台の平均価格が300万円ではおいそれとクルマが買えるわけがない。特に若年層における賃金低下は著しく、買いたくても変えないというのが現実だろう。
つまり国内でクルマが売れなくなったのは、若者の車離れでも、人口減少でもなく、相対的な所得低下の影響が大きい。しかも困ったことに、2020年代以降、いよいよ人口減少が本格化する可能性が高く、今後は人口の絶対数が急ピッチで減っていく。自動車の国内販売市場には逆風しか吹いていないというのが偽らざる現実である。
国内市場が縮小すれば、メーカー各社は否応なく海外市場を強化せざるを得ないので、製品に国内ニーズが反映されにくくなる。そうなってくると輸入車と国産車の違いも縮小していくので、さらに国内市場が儲からないという悪循環となってしまうかもしれない。
■今後はEVと自動運転が自動車販売業界の景気回復につながるカギとなる
ここまでかなり厳しいことを書いたが、実は筆者は国内の自動車販売市場についてそれほど悲観視していない。その理由は、今後の10年でクルマの所有形態や価格体系が大きく変わり、従来とは別の形でクルマを普及させることが可能だからである。
カギを握るのは、説明するまでもなくEV(電気自動車)と自動運転の普及である。
よく知られているようにEVは内燃機関と比較して部品点数が少なく、バッテリーのコスト次第では圧倒的な低価格を実現できる。すでに最新モデルではガソリン車より安い製品が出てきているし、中国では日本円で50万円を切るミニEVがテスラを抑えてバカ売れしている状況だ。
上汽通用五菱汽車が販売する「宏光MINI EV」の購入者は20~30代が中心だが、日本でも同様の低価格EVが発売されれば、多くの若者が魅力を感じるはずだ。
EV市場について考える際に絶対に欠かせないのが、EVとIT機器はセットになるという視点である。
「宏光MINI EV」のオーディオはスマホ接続が大前提になっているし、アップルが投入を計画しているアップルカーに至っては、クルマがiPhoneの周辺機器になってしまうくらいの大胆なコンセプト転換があると予想されている。
四六時中、スマホをいじっている若年層にとってクルマを運転している時間は(スマホに触れることができないので)無駄な時間以外の何者でもなく、スマホとの連携が保てるのかどうかは購買にあたっての最重要事項である(マニュアル車に乗っていた筆者には想像もできない世界だが、現実は現実として受け止める必要があるだろう)。
運転する時間がスマホにとって邪魔ならば、ベストな解決策は自動運転ということになる。日本に存在するクルマの90%が稼働していないというのが現実であり、多くの所有者は休日以外にはほとんどクルマを動かしていない。
しかも若年層ほど、モノを他人と共有する(シェアリングする)ことに抵抗感がないので、自動運転車の一部は所有ではなく利用という形態になる可能性が高い。
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