■自動運転技術には自動化レベル(0~5の6段階)がある
ところで、自動運転技術には自動化レベル(0~5の6段階)があり、各レベルに応じた機能の定義や、責任の所在が明確化されている。ご存知の読者も多いと思う。自動化レベルは国連WP29のもと世界的に統一され、国や地域をまたいだ技術開発も盛んだ。
ただ、自動運転技術の解釈は難しい。日々、調査や取材を行なっている筆者であっても理解が追いつかないこともしばしば。とくにレベル3以上の法的に認められた「自動運転」領域に関しては情報の量が桁違いに多く、新たな解釈や定義も加わる。
さらに、自車周囲の交通環境によって、自動運転システムの制御が大きく変わってくるからややこしい。ここはレベル3を備えるHonda SENSING Eliteを装着した「レジェンド」からたくさん学んだ。
新しく、より高度な自動化技術が世に出ると、その素晴らしさや机上で語られた将来性に目を奪われてしまう。機械ものが大好きな筆者もその一人……。
しかし、それらには見落としやすい別の側面がある。高度な自動化技術には、
(1)物理的な機能限界があり、それは状況により変動すること。
(2)システム構築段階から定められた運行設計領域(ODD/Operational Design Domain)のもと成り立っていること。
この2点をしっかり把握することは、社会が自動運転技術をどれだけ受け入れているかを計る「社会的受容性」を高める上でも重要だ。
(1)と(2)は人やクルマの混合交通となる実際の交通環境ではなおのこと大切で、例えば悪天候下では(1)の機能限界が早めに訪れるし、システムの設計条件にない一般道路における60km/hでのレベル4走行(例/現時点のレベル4が20km/h以下)は、人の手による緊急回避が行える実証実験車を除き現時点では危険が伴う。
これは視界が遮られた状態での運転や、技量を伴わない高速走行が危険であると容易に想像できることと同じだ。
■レベル4相当の小型電気バスは自動運転技術の未来を切り拓いている
本稿のテーマでもあるレベル4相当で走行する小型の電気バスは、すでに自動運転技術の未来を切り拓いている。筆者がそう確信したのは今から5年前だ。
2016年7月初旬、交通コメンテーターを宣言し15年の歳月が過ぎたことを区切りに、北欧フィンランドと永世中立国であるスイスへ出向き、公共交通機関に対する単独取材を行なった。
スイスでの目的は、2016年6月23日にシオン城で有名な都市シオンでスタートした、レベル4を実装する小型の電気バス「ARMA」の営業運行車両に乗客として乗車するためだ。営業運行とは乗客から運賃を徴収する走行で、ARMAは世界初の営業運行車両と位置づけられた。
今回乗車したARMAは一般的な公共交通機関におけるバスの運行スタイルと違い、複数の会社による協業で成り立つ。
車両の製造を受け持つ会社「NAVYA」社、運行を担当する会社「PostBus」社、そして運行管理システムを設計し運営する会社「BestMile」社の三位一体により安全な運行が担保されている。
このうち、運行管理のシステム設計を行なったBestMile社の創設メンバーの一人であるアンヌ・メラーノ氏に話を伺った。BestMile社はローザンヌ連邦工科大学から発足した民間企業であり、今回のARMAでは運行管理システム「マネージングプラットフォーム」を担当している。
ARMAが運行できるのは「歩行者エリア」と呼ばれる、歩行者と許可された車両のみが走行できるエリア内に限定されており、営業運行時の最高速度は20km/hに制限される。
場所や速度など制約が多いが、欧州における小型バスの役割は重要で年々需要も高まりつつあるため、これでもここ数年で規制は大きく緩和されたという。
背景にあるのは我が国と同じく、欧州における人口の高齢化問題であり、さらには公共交通機関における労働力不足に悩まされている現状を打破する意味でも、世界中からこのプロジェクト(ARMAの営業運行)は注目されていた。
営業運転を行なうARMAでは、過去にローザンヌ連邦工科大学の構内路で行なっていた自律自動運転型シャトルバスの実証実験で得られたデータが非常に役に立っており、「それが今日における我々のノウハウであり財産」であるとアンヌ氏は語る。
続けて氏は、「構内路なので学生の飛び出しや急な道路横断者が多く、安全に走らせるだけでも難易度が高かったのですが、そもそも自動運転車両はどんな場面でも人や他車を認識し、必ず止まってくれる、そして進路を譲ってくれるものだ、そういった認識が学生だけでなく教師の間でも高かったことに驚きました」。
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