「自動運転レベル3でなければいけなかった理由」ホンダ 杉本洋一氏インタビュー(前編)【自律自動運転の未来 第12回】


 自動運転技術にまつわる最新情報をお届けする本連載、今回は世界初の自動化レベル3技術を含む「Honda SENSING Elite」の開発を担当されたホンダの杉本洋一さんにお話を伺います。杉本さんは株式会社本田技術研究所の先進技術研究所に所属され、知能化領域とAD/ADAS研究開発室のエグゼクティブチーフエンジニアであります。

 2017年のテストコースにおけるプロトタイプの試乗から3年半が経過。今回は、公道で「レジェンド」に実装された技術を体験しましたが、率直な感想として、レベル3技術は、当方を含む多くのドライバーにとって非常に高度な技術であることがわかりました。

 例えるならば、道路を走る航空機に近い緻密な技術の集合体のように感じられたのです。クルマの状態にはじまり、周囲の交通状況を車両のセンサーは今、どう把握しているのか、ドライバーにはそれを慮った運転操作が求められます。こうした、かつて経験したことのない環境は新鮮でした。

 さて、杉本さんは何を語ってくれるのでしょうか。

文/西村直人 写真/奥隅圭之、西村直人

世界初! 自動化レベル3ホンダ新型レジェンド公道試乗レポート【自律自動運転の未来 第5回】
シリーズ【自律自動運転の未来】で自動運転技術の「いま」を知る

■「おもいやり制御」と呼んでいます

西村直人(以下、西村) これまで「認知、判断、操作」と3段階で説明されていた高度運転支援技術に対して、自動運転技術を含むHonda SENSING Eliteでは「認知、予測、判断、操作」と予測が加わり4段階になりました。運転操作に対する予測はこれまで人の領域でしたが、Honda SENSING Eliteでは何を予測しているのですか?

2021年3月、ホンダは量産車世界初の「自動運転技術レベル3」であるHonda SENSING Eliteを搭載したレジェンドを発売した。杉本氏はその技術責任者

ホンダ 杉本洋一(以下杉本) 「予測」というと、まだちょっとおこがましいのですが、これまでの運転支援技術になかった機能を追加したとお考えください。例えば、合流地点で自車の前に割り込み車が現れたたとします。これまでの運転支援技術では、割り込み車を認知してから、「このまま接近すると危険が生じる」となる時点ではじめて減速操作が始まります。

 いっぽうHonda SENSING Eliteでは、広いセンサー検知エリアとそれに伴う予測アルゴリズムをもっているので、人が判断するように前もって割り込み車がいることをシステムが認識しています。そして、その割り込み車がスムースに合流できるよう、その運転操作を予測してこちらが譲る、つまり自車前に割り込ませる制御を行います。これにより、自車だけでなく割り込み車も安心して安全な運転操作が継続できます。

西村 Honda SENSING Elite開発陣の間では、割り込み制御を「おもいやり制御」と呼んでいるようですね。

杉本 はい、愛情を込めて(笑)。ただ、実際のところ、おもいやり制御は双方にとって安心・安全な運転操作ではありますが、それほど高度な技術ではありません。将来的には、ここにAI(人工知能)を採り入れてさらに高度にしたいと考えています。

株式会社本田技術研究所 先進技術研究所 エグゼクティブチーフエンジニア 杉本洋一氏

西村 どんな高度化ですか?

杉本 現状のHonda SENSING Eliteレベル3は高速道路などに限定されますが、これが一般道路まで稼働範囲を拡げるとなると、必ず歩行者との整合性が重要になります。歩行者の行動予測はとてもむずかしいです。

西村 かつてメルセデス・ベンツも人の行動予測として「6Dビジョン」を発表していますが、それだけで立派な学問なんですね。例えば、横断歩道を渡る、または渡ろうとしている歩行者がいる場合は、自車が一時停止するなど歩行者の歩行を妨げてはならないとする法規もありますから、システムが請け負う領域が拡がることは必至ですね。

杉本 その歩行者の動きを認識するため、我々は歩行者の顔向き、身体向きなどから判断できないか、かねてより研究を進めています。

西村 ところで、Honda SENSING Eliteのプロトタイプ試乗の際には、光学式カメラだけで一般道路でのレベル3相当を実現した別のプロトタイプ車両にも同乗試乗させていただきました。こちらでも、さきほどの予測領域へ踏み込んでいるのでしょうか。

杉本 はい、それを含めて研究しています。こうした予測領域は知能化とも密接な関係があります。よって、私は知能化領域と兼務で担当しています。現在、新たなAIの活用方法を模索しながら、少し先の将来に向けた技術開発を行っており、そのなかで予想や予測の領域を研究しています。

西村 そうなると、ホンダのヒューマノイドロボット「ASIMO」に代表されるロボティクス分野とも関係があるのでしょうか?

杉本 そうですね。論理的思考など考え方には同じ部分もありますが、知能化領域に限定して考えると、Honda SENSING Eliteなど自動運転技術の分野ではロボティクス分野よりも、認知や予測の段階は先行しています。

西村 ホンダでは自動運転技術の開発を日本だけでなく、世界規模で開発を行っていますね。

杉本 北米では「Honda Research Institute」と、中国では「SenseTime社」と協業しています。状況に即した開発現場でステージごとの研究を進め効率を高めています。

■規制速度と実勢速度が離れている日本では…

西村 話を試乗したHonda SENSING Eliteに戻します。

 2015年に開催されたメディア向け取材会「ホンダミーティング」の場では、「目標ライントレース車両制御」の搭載車が用意され、同乗試乗もさせて頂きました。自動運転車両が外乱などによって走行軌跡が乱されそう担った場合、それをいち早く検知して正しい走行ラインに戻す、そういった制御でした。当時から、特許出願中だと仰っていましたが、Honda SENSING Eliteにこの目標ライントレース車両制御は導入されていますか?

「目標ライントレース車両制御」の搭載車

杉本 正確に同じ制御が入っているとは言えませんが、車両位置の適切な把握という観点からすれば、同じ方向性をもった考え方は踏襲されています。実際、目標ライントレース車両制御を開発していたメンバーがHonda SENSING Eliteの開発も担っています。

西村 今回は公道での試乗でしたが、速度の規制標識を読み取り車両制御に反映させる、いわゆる「ISA/自動速度制御装置」の概念はあえて導入されていないようです。誤検知による急減速がなく、運転中、慌てることがなくて良いなと思いましたが、ISAの採用を見送った狙いはどこにあるのでしょうか?

杉本 標識認識機能を自車の速度制御に使うことのメリットはたくさんあると承知しています。その上で、速度制御を実装するには技術に対する信頼性向上が求められると考えています。現状を鑑みると、本線と脇道にある2つの標識の差別化が難しく、正しい制御を行うには対処が必要です。よって、現時点では、総合的に判断してHonda SENSING Eliteの速度管理はドライバーの責任のもとに行っていただいています。

西村 Honda SENSING Eliteの設定可能速は125㎞/hですが、その範囲のなかで、ドライバーが速度を管理するという考え方を採用されていると認識しました。

 もっとも日本の場合、「規制速度と実勢速度が離れている」と言われます。どこでも低い規制を設けているわけではなく、「85パーセンタイル速度」という概念を採り入れて、実際の交通環境に即した規制速度としていますから、それらをドライバーが状況判断することが大切なんですね。

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