■人の協力がなければ自動運転は普及しない
自動運転技術が人に移動の自由をもたらすように、人が自動運転技術に対して歩み寄る姿勢も必要だ。
わかりやすくクルマの前に飛び出さない、右左右と安全を確認してから道路を横断するといった、これまでの自動車社会で守るべきルールとされてきたことを、自動化レベル4を備えるクルマに対しても当てはめるべきだと考える。
なぜなら物理的に止まれない状況(例/20㎞/hで走行時、衝突予測時間0.3秒(自車前方約1.7m))以下で歩行者が飛び出す状況)で発生した人身事故の原因が、自動運転のシステム側にあると誤認定されてしまえば、それこそ自動運転どころか、安全な交通環境の実現すら不可能だからだ。
それに、十分な検証なしにシステム側への責任転嫁が続けば、開発を請け負う技術者の足だって遠のく。大切なことは、データに基づく正しい事故の検証とその分析、そして人の交通安全に対する啓発活動を重ね合わせて継続することにある。
現地シオンで乗車したARMAは、乗車定員11名の小さなシャトルバスだ。ただし、画像で確認できる通り全高は高く2m以上あり、そばに立つとそれなりに威圧感がある。
これは歩行者エリアを走行するため、ボディの全長と全幅を小さくしなければならないという制約と、車内における乗客の快適な移動という相克への対策だ。
車内は15名以上乗れる広さがあるものの、乗車定員は11名でシートも11名分のみ。一般的な公共交通機関の路線バスにある立ち席(立ったまま乗車する席)は設定がない。
これは運行時の最高速速度が20km/hに制限されているとはいえ、緊急時には瞬間的な強いブレーキ(最大減速度にして0.7前後)が掛かるため、立ち席の乗客は立っていられないからだと説明を受けた。
実際、減速度が0.2を超えると手すりなどにつかまっていないと転びそうになるため、たとえば日本の路線バスではその値を超えないよう周囲の交通環境に合わせた予測運転を、大型第二種免許を取得したプロドライバーが行なっている。
ARMAの運行ルートはシオン市街地のうち歩行者エリアが設けられた範囲で、狭い裏道を中心に約1回15分ほど乗車する。またとない機会なので筆者は5回連続で乗車した。車内には緊急時に回避動作を行なう手動運転者として対応訓練を受けたスタッフが1名乗り込んでいる。
筆者の乗車日は営業運行開始からちょうど2週間が経過した日であったため、歩行者エリアを歩く街の人々なかにはARMAの特性(例/人の近くに寄ってから急ブレーキをかけるなど)を掴んでいる方もいた。自身のパーソナルエリアにARMAが接近してくることを察知すると、歩行者自らが進路をかえてARMAに道を譲っていたのだ。
自動運転車両に対する先入観がないのが良いのか、誰に教わったわけでもなく、自動運転車両かどうかは問わずに、前から小型バスが来たから少し避けて進路を空ける。これこそ人とクルマの道路シェアにおける協調運転だと感心しきり。
歩行者エリアにはお店が多く、道路にはみ出した路上看板が散見された。また、オープンカフェでは周囲の視線を遮るために設けられた植木の枝や葉が風にあおられ、道路側へと大きくなびくシーンも確認できた。
これらはすべてARMA、正確にはARMAが搭載する主センターであるレーザースキャナーや複眼光学式カメラにとっては脅威になる。なぜならそれは、障害物として認識され、その都度、ARMAは停止して安全を確認してから再発進する。
進路が極端に狭められていると、ARMAは停止したまま同乗スタッフへ回避手動運転を求める。するとARMAからの回避要求を受けた同乗スタッフは、家庭用ゲーム機でお馴染みのジョイスティックコントローラーを操作して看板や植木を回避するのだ。
下車後、「上手いもんですね!」と同乗スタッフに話しかけると、「看板や植木は毎日置き場所が変わるので、それらを私たちの手でどかさなければ走行できない状況も多々あります。人(我々同乗スタッフ)の協力がなければ自動運転は普及しないと思います」と冷静な顔で釘を刺した。
なんのことはない、真の意味での混合交通下、しかもそれが歩行者エリアともなれば、最新の自動化レベル4相当を実装するARMAでも「レベル0」まで瞬間的にさかのぼり、人の手による手動運転によって危険な状態から遠ざかるのだ。
レベル4の自動化定義(システムが全ての動的運転タスク及び作動継続が困難な場合への応答を限定領域において実行/自動運転者の安全技術ガイドライン原文まま)と異なるが、これが現実。だからこそ、社会的受容性を向上させる必要がある。
現在、日本におけるレベル4の実証実験では、こうした手動運転をシステムが求める場合に遠隔地にいるスタッフが仮想ドライバーとなって回避運転を行なっているが、植木や看板の例を考えると、やはり当面は同乗スタッフのサポートを受けるほうが現実的のように感じる。
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