■今年3月ホンダはレベル3自動運転に対応するモデルを発表
自動車業界だって言われるまでもなく長年自動運転の研究を続けてきたわけだが、安全性と信頼性を何よりも優先する業界の掟からすると、ITベンチャーみたいにお気軽なことは言えず、業界全体で基礎技術の向上に取り組むしかなかったのが現実なのである。
こういう社会的な制約や開発に要するタイムスケールの差を、大手経済紙や半可通の識者はわかっていない。
案の定というべきか、グーグルは自動運転部門をウェイモとして分離して以降、今日に至るまでただ実験と研究を続けているだけだし、アップルのタイタンと呼ばれる自動運転プロジェクトは大幅な人員削減をしたりキーパースンを呼び戻したり迷走中。
ウーバーは自動運転テスト中の死亡事故がニュースになったが、昨年末に部門ごと他社に売却されてしまったし、テスラのオートパイロットは依然としてレベル2運転アシストに限定して市販されている(それでも事故多発で問題になっている)。
要するに、2015年頃にメディアが囃し立てていた完全自動運転という夢の未来は、依然として遠くにかすむ蜃気楼のままなのだ。
それに引きかえ、日本の自動車メーカーのなんと律儀なこと!
みなさんもう忘れてるかもしれないが、東京オリンピックの開催が決定した2013年ころ、日本の自動車業界は「オリンピック本番までに自動車専用道限定ではあるが自動運転車をデビューさせる!」と約束した。
オリンピックの延期によって1年ほど遅れはしたけれど、今年の3月にはレジェンドがレベル3自動運転に対応する Honda SENSING Elite 搭載のモデルを発売、公約をきちんと果たしている。
この Honda SENSING Elite が提供するレベル3の機能は、いわゆる「自動運転」としては初歩的で、制御を完全にクルマ側に任せられるのは自動車専用道路限定、速度も30㎞/h以下で起動〜50㎞/h以上で解除という領域のみ。欧米の自動運転ベンチャーが喧伝している「A地点からB地点まで自動運転で完走!」みたいな事例と比べると、「これまで発売されてきたレベル2のADASと大差ないじゃん」と思う人も少なからずいるだろう。
しかし、このレジェンド Honda SENSING Eliteは、国土交通省がレベル3型式指定を与えた正規モデルとしてリリースされ、100台限定リースとはいえ一般ユーザーにデリバリーされる。ここがもっとも重要なポイントだ。
■トヨタも近い将来レベル3自動運転が可能に
欧米のベンチャービジネスは、まず派手な技術的成果をブチ上げて世間の注目を集め、それによって投資家から資金を集めて事業を拡大するのがセオリー。だから、自動運転をはじめとして、空飛ぶ自動車や革新的な電気自動車など、メディアが囃し立てるわりには肝心の製品がぜんぜん出てこない例は珍しくない。
しかし、実際にユーザーの手に渡らなければ、どんな夢の技術も絵に描いた餅。このハードルをしっかり超えてきたのは、いまのところホンダだけ。これは声を大にして賞賛すべき偉業だと思う。
また、レジェンド Honda SENSING Elite にやや遅れて、トヨタはレクサスLSとミライに Advanced Drive を設定してきたが、こちらは慎重派のトヨタらしく、2段階でレベル3を実現するという作戦だ。
発売された Advanced Drive モデルは、センサーとして前方用ライダーと望遠カメラを追加。さらに、精密地図や電源やシステムの二重化で冗長性を確保したADAS ECU、AI機能を司るADX ECUなど、信頼性とデータ処理能力を大幅に強化したハード/ソフトを投入。やろうとすれば、このハード上でレベル3対応ソフトが走りそうなところまで煮詰めてきている。
しかし、現行 Advanced Drive ではレベル3のリリースは見送られ、常にドライバーの監視を求めるレベル2までの機能提供にとどめている。
じっさいに乗ってみると、ハンズオフ対応の速度レンジやレーントレースの正確性など、運転感覚はレジェンド Honda SENSING Elite とほとんど変わらないが、ドライバーが目を離してスマホ操作やDVD視聴などができる「アイズオフ」運転だけはレベル3でないため不可。名より実をとったという印象だ。
これはハードやソフトに課題が残ったという事情はあるだろうが、「自動運転車の社会的な受容性についてトヨタはまだ世論の反応を探っている」という理由もあるように思われる。
もちろん、トヨタは一度「やる」と言ったらやる会社だからこのまま終わるわけではなく、レベル3自動運転機能提供へのロードマップが用意されている。Advanced Drive 仕様では、レクサスLSもミライもハード/ソフト両面のアップデートが可能で、左右フロントフェンダーとリアバンパーにライダーを追加装備するためのマウントがあり、ソフトウェアのアップデートと合わせて近い将来レベル3自動運転が可能となる。
じつに、石橋を叩いて渡るトヨタらしいアプローチだが、制御の主体がクルマ側に移行するレベル3自動運転は、自動車メーカーにとってリスクの高いテーマ。これまで以上の信頼性と安全性を確保するため、もう少し時間が必要という判断だったのかもしれない。
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