希薄になったホンダのブランドイメージ
なぜホンダのクルマづくりは儲からなくなってしまったのか。そもそも自主独立など、現代においては非現実的なのか。苦難を乗り越えて栄光を手にしてきたホンダの歴史を知る人間にとってはにわかには信じがたいだろう。
CASE(コネクティビティ、自動運転、シェアリングエコノミー、電動化)の4つの技術革新が押し寄せ、混沌としている時代で、残念ながらトヨタにしても自動車産業がどうなるかという未来を本当に見通せているメーカーは出現していない。
クルマを個人所有する時代が終わるとよく言われるが、それならばホンダがそれをひっくり返し、新しいパーソナルモビリティの姿を提案することも可能だ。2代前の社長の福井威夫氏は「シェアリングエコノミー時代の到来を予見しながら、ホンダはそれと戦う」と意気込みを見せていたことを思い出す。

だが、ホンダがその路線を走るのは難しい状況になりつつあるのも事実。2008年秋のリーマンショックから今日まで、ホンダはグローバルな自動車業界においてホンダがどういう企業でありたいかというビジョンを描かず、販売台数を稼げる米国や中国で低価格帯のクルマを売るというビジネスを展開している。
いっぽうで、リーマンショック時に資金が枯渇しそうになった経験から、内部留保の積み増しにも全力投球してきた。
その結果、ようやく飛び立った「ホンダジェット」を除けば、ここ10年でホンダが自前で開拓した分野というものが少なく、ブランドイメージは希薄になった。
また、技術面でもホンダが主役となって他社を従えるような本来のホンダらしさである強みを出せなくなりつつある。
自主独立路線への再チャレンジは十分可能
リーマンショックの前後であれば、ホンダが自主独立を貫きながも、他国のメーカーを傘下に収めるような提携もあり得ただろう。しかし、今はもうそんなメーカーは残っていない。
単独でいるという形の上での自主独立にこだわりすぎて、本当に自主独立を貫くチャンスを失ったようにも思えるが、唯一の救いは今でもホンダの研究開発力はまだまだ世界有数。年間の研究開発費も8000億円を上回る。


ホンダの価値観で世界を魅了し、会社を成長させていく自主独立路線への再チャレンジは十分可能だ。それには利益率が下がり、何か異変が起こればただちに経営危機になるというプレッシャーを跳ねのけて、経営陣がダイナミックに動くだけのリーダーシップを発揮できるかどうかが問われている。
ホンダの経営トップはトヨタ、日産とともに日本自動車工業会(自工会)の会長職を2年交代で順繰りに務めてきた。現会長のトヨタの豊田章男氏の次はホンダが人材を出す番なのだが、先般、次の2020年度以降も豊田氏が続投すると発表された。
本来なら次を務めるはずであったホンダ会長(自工会副会長)の神子柴寿昭氏は「2020年はオリンピックの年で、それを盛り上げるためにも経験豊富な豊田会長に続投をお願いした」と持ち上げた。
業界関係者の間では「豊田会長がやる気満々なので譲ってあげたのでは」とか、逆に「業績悪化でホンダが自工会活動をする余裕もないからトヨタが引き受けた」など、諸説紛々の憶測も広がる。
その真相はともかく、ひと昔前のトヨタとホンダは切磋琢磨しながらライバル意識が強烈だったが、最近は日本を代表する自動車メーカーが”オールジャパン”で生き残るためにも、トップ同士が持ちつ持たれつの良好な関係を築いていることも事実。

それをトヨタが、かつてのようにホンダを手強い「好敵手」とみるのかどうかだ。
この先もホンダが、今季久々に優勝を果たしたF1レースの参戦や創業者・本田宗一郎の夢を実現させた小型ジェット開発などユーザーを魅了する独立路線を貫けるかどうか。
それともスバルやマツダ、スズキのように、トヨタなど巨大陣営の軍門に下って寄り添うのか。おそらく、ホンダの「未来予想図」ともいえる「2030年ビジョン」の骨格が固まる5年先の2025年ごろまでにはその道筋がはっきり見えてくることになるだろう。
コメント
コメントの使い方