最近、プリウスやアクアなどのフルハイブリッド車と違う、低出力のモーターを組み合わせたマイルドハイブリッド車が登場してきています。
そこで、気になるのはフルハイブリッド車と、マイルドハイブリッド車と何が違うのでしょうか? 燃費や価格、走りに差はあるのでしょうか?
その差があまりなければフルハイブリッド車を選びたいところですが、実際のところ、フルハイブリッド車と比べて、マイルドハイブリッド車の費用対効果はどれくらい違うのでしょうか? モータージャーナリストの諸星陽一さんに解説してもらいましょう。
文/諸星陽一
写真/ベストカーWEB編集部
【画像ギャラリー】マイルドハイブリッド搭載車/セレナ、スバルXV、デイズ&ekワゴン詳細
フルハイブリッド車とマイルドハイブリッド車との違い
■スイフトのフルハイブリッド車

クルマのパワートレインが変化するなか、1997年にトヨタがハイブリッド車のプリウスを発表して以来、日本ではハイブリッドモデルが数多く発売されてきました。
そうした歴史のなかで、ハイブリッドのバリエーションのひとつとして「マイルドハイブリッド」なるものが登場しました。
現在、マイルドハイブリッドと一般的なハイブリッドを明確に区分けするため、プリウスなどに採用されている普通のハイブリッドを「ストロングハイブリッド」と呼ぶことも増えてきました。
ストロングハイブリッドの魅力は以下のようになります。
1:エンジンが不得意とする発進時などはモーターで行うことで力強い発進が可能になる
2:減速時に回生ブレーキを使うことでエネルギーの回収ができる
3:追い越し時などで強い加速が必要なときにモーターがアシストする
4:電気自動車と違い充電の手間がない
5:エンジンを始動しないEV走行が可能
このうち、5のEV走行以外については、程度の違いはあるもののマイルドハイブリッド、ストロングハイブリッドの共通のことです。
さらに言うなら、ワゴンRなどでは低速で短時間という条件を付ければEV走行も可能となっています。
マイルドハイブリッドは必要か?
■スバルのマイルドハイブリッド e-BOXER

■スイフトのマイルドハイブリッド

こうなると、なにもマイルドハイブリッドではなくて、ストロングハイブリッドがあればいいじゃないか、と思う人もいるでしょう。
はたしてマイルドハイブリッドは必要なものなのでしょうか?
ハイブリッドやEVで強い力や電動での長い走行距離が欲しい場合は、現在の技術ではバッテリーを大きくする以外に方法はありません。
そしてバッテリーを大きくすれば当然のように重量が増します。バッテリーの重量が増えれば、各種の性能に悪影響を及ぼします。
それを克服するにはさらにバッテリーを大きくして……という悪循環に陥ります。そこで、適当なところでバランスを取るわけです。
そのバランスの取り方でバッテリーがかなり小さい状態、モーターもそれにともなって小さなものとしたのがマイルドハイブリッドと考えればいいでしょう。
ストロングハイブリッドにするためにバッテリーを大きくすれば、当然のように室内空間を圧迫します。
しかし、マイルドハイブリッドならバッテリーもモーターも小さくて済みますので、室内空間への圧迫は少なくて済みます。ですので軽自動車やコンパクトカーではマイルドハイブリッドが使われる傾向があります。
■主なマイルドハイブリッド搭載車
●スズキ:スイフト、イグニス、クロスビー、ソリオ、ソリオバンデット、スペーシア、スペーシアカスタム、スペーシアギア、ワゴンR、ワゴンR スティングレー
※スイフト、ソリオ、ソリオバンデッドはマイルドハイブリッドとフルハイブリッドを両方とも設定
●日産:セレナ、デイズ
●スバル:XV/フォレスター
●三菱:ekワゴン&ekクロス
マイルドハイブリッドはどんなメリットがあるのか?
ではマイルドハイブリッドはユーザーにとってメリットがあるか? という面を検証していきましょう。
まず、動力性能をはじめとしたドライバビリティを考えます。ストロングハイブリッド、マイルドハイブリッド、ピュアエンジンという3種のパワーユニットを備えるスイフトを例にします。
幸いなことにスイフトは同じ1.2Lエンジン使って、3種のパワーユニットを作っているので比較サンプルとしては最良と言えます。
なおスイフトはストロングハイブリッドといってもさほど大きなバッテリーを積んでいるわけではないので、重量増もわずかで室内空間への影響もラゲッジスペース容量の差程度に収まっています。
ベースとなる1.2Lエンジンは91ps/12.0kgmを発生します。エンジンだけでも軽快な走りができますが、ここにISGと言われる装置が付いたマイルドハイブリッドになるとさらに走りがよくなります。
ISGはオルタネーターをモーター&ジェネレーターとして使うような機構です。スペックは3.1ps/5.1kgmとかなり低いのですが、発進時などではアシストが効きちょっとした力強さを感じられます。
ストロングハイブリッドは13.6ps/3.1kgmのスペックを持ちます。ISGに比べると明らかにパワフルで力強い印象です。
ピュアエンジンとマイルドハイブリッドはミッションにCVTを使っています(ピュアエンジンにはMTもあり)が、ストロングハイブリッドはAGSというマニュアルミッションベースの2ペダルATを採用します。
パワーユニットの力強さはもちろんなのですが、CVTよりもダイレクトな伝達フィールがあるので力強さはより増幅しています。
JC08モード燃費を比べてみると下記のようになっています。
●各パワートレインのJC08モード燃費
■ピュアエンジン RS(CVT) 24.0km/L
■マイルドハイブリッド ハイブリッドRS(CVT) 27.4km/L
■ストロングハイブリッド ハイブリッドSL(ASG) 32.0km/L
これだけみるとストロングハイブリッドはかなりの魅力ですが、車両本体価格はストロングハイブリッドが高いという事実があります。各車の価格は下記のようになります。
●スイフトの各パワートレインの価格
■ピュアエンジン RS(CVT) 172万1500円
■マイルドハイブリッド ハイブリッドRS(CVT) 182万0500円
■ストロングハイブリッド ハイブリッドSL(ASG) 198万5500円
ピュアエンジンとストロングハイブリッドの車両本体価格の価格差は26万4000円ですが、減税額の違いなどもあるので本体価格だけでは物事はすみません。
スズキのホームページ上にある見積もりサイトで、見積もった乗り出し価格は以下のようになります。結果は2019年11月登録です。登録諸費用は概算額がプラスされています。
●2019年11月登録の場合 登録諸費用込み概算費用
■ピュアエンジン RS(CVT) 185万3365円
■マイルドハイブリッド ハイブリッドRS(CVT) 193万8365円
■ストロングハイブリッド ハイブリッドSL(ASG) 209万9665円
こうして計算してみるとピュアエンジンとストロングハイブリッドの価格差は24万6300円ですが、ピュアエンジンとマイルドハイブリッドの価格差は8万5000円でしかありません。
さて、JC08モード燃費を元に年間のガソリン代を概算してみましょう。ガソリン料金は税別で1リットル145円、年間走行距離を1カ月1000km走行するとして1万2000kmとします。
●各パワートレインの1年間のガソリン代
■ピュアエンジン RS(CVT) 7万9750円
■マイルドハイブリッド ハイブリッドRS(CVT) 6万9854円
■ストロングハイブリッド ハイブリッドSL(ASG) 5万9813円
おもしろいことにそれぞれの差はおよそ1万円となりました。ピュアエンジンに比べて8万5000円高となるマイルドハイブリッドは8年半でモトが取れます。ストロングハイブリッドの場合は12年強の月日が掛かることになります。
こうして比較するとマイルドハイブリッドならば、比較的モトが取りやすいということがわかります。
スイフトのようにハイブリッド化によって圧倒的にパワーアップができるわけではない場合、とくにマイルドハイブリッドの存在に意義があると言っていいでしょう。