ホンダの魂が聞こえてくる 幻のS360復活 独占詳報プレイバック【ベストカーアーカイブス2013】

ホンダの魂が聞こえてくる 幻のS360復活 独占詳報プレイバック【ベストカーアーカイブス2013】

 1962年の第9回 全日本自動車ショーに出展されながら発売されることのなかった、幻のホンダ S360が、2013年10月、本田技術研究所の手によって完璧に復元され、51年ぶりにDOHCサウンドを響かせ走った。「技術の伝承」を大きな目的として24歳の若い技術者からOBまで、約70人の人たちが7カ月にわたって奮闘し、Sの原点にたどりついたのだ。(本稿は「ベストカー」2013年11月26日号に掲載した記事の再録版となります)

文:編集部/写真:茂呂幸正

【画像ギャラリー】S500に乗る本田宗一郎氏の姿も。写真で見る“新型”S360の秘密(21枚)画像ギャラリー

■わずかに残った5枚の設計図 51年を経て復活したS360

今回の復活プロジェクトは小林康人LPLを中心に手がけられた。図面がないものも多く、OBからの聞き取りによって試行錯誤を繰り返したそうだ。また部品探しのため、ホンダの倉庫という倉庫に当たり、エンブレムほかいくつかが奇跡的に見つかったという
今回の復活プロジェクトは小林康人LPLを中心に手がけられた。図面がないものも多く、OBからの聞き取りによって試行錯誤を繰り返したそうだ。また部品探しのため、ホンダの倉庫という倉庫に当たり、エンブレムほかいくつかが奇跡的に見つかったという

 51年の時を経てホンダスポーツの原点ともいえる幻のS360がツインリンクもてぎの敷地内を走ることを誰が予想しただろう。すでに今年(2013年)の4月には一応完成していたというこのS360、ホンダS500から始まるホンダ“S”シリーズの出発点となるモデルだ。

 “幻”というのは、1962年の第9回モーターショーにこのシルバーのS360とレッドのS500が出展され、その年、報道陣向けに試乗会まで開かれながら、翌1963年に市販されたのはS500で、軽自動車規格のS360は市販されずショーモデルとして終わったからだ。

 そのS360が復活、デモンストレーション走行を行った。復活といっても一般的なレストレーションによる再生ではなく、ほとんど手作りにより再現したものだ。

 なにしろレストアしようにも元になる原型が存在しない。わずかに残った5枚の設計図と奇跡的に残っていた当時のパーツ、それにT360、S500、600のパーツを加工しながら完成させたという。

 全長わずか3m、全幅1.3mという当時の軽自動車規格に合わせ作られたこのS360は、ホンダ初の4輪車となったT360トラックよりも早く本田宗一郎氏により企画されたといわれる。

全高はわずかに1146mmしかなく、シートに座ると地面に手が着くくらいの低さ。それでいて最低地上高は160mmあるところが面白い。グリル内にあるのがウインカーで、ヘッドライト下がポジションランプだ
全高はわずかに1146mmしかなく、シートに座ると地面に手が着くくらいの低さ。それでいて最低地上高は160mmあるところが面白い。グリル内にあるのがウインカーで、ヘッドライト下がポジションランプだ
トランクのエンブレムはオリジナルというところが凄い。S360は4in1のエキゾーストパイプを採用している、このあたりはバイクそのもの。エンジン音はトゥルルルと軽く力強いものだ
トランクのエンブレムはオリジナルというところが凄い。S360は4in1のエキゾーストパイプを採用している、このあたりはバイクそのもの。エンジン音はトゥルルルと軽く力強いものだ
このホワイトリボンタイヤは残念ながらオリジナルではなく、BFグッドリッチのシルバータウンを装着する。サイズは前後5.20-12-2PRだ
このホワイトリボンタイヤは残念ながらオリジナルではなく、BFグッドリッチのシルバータウンを装着する。サイズは前後5.20-12-2PRだ
端正なリアビューはあえて英国風にドロップヘッドクーペと呼びたいもの。軽枠ギリギリの全長2880mmに対してホイールベースが2000mmもあったため、リアのオーバーハングが極端に切り詰められているのがS360の特徴だ
端正なリアビューはあえて英国風にドロップヘッドクーペと呼びたいもの。軽枠ギリギリの全長2880mmに対してホイールベースが2000mmもあったため、リアのオーバーハングが極端に切り詰められているのがS360の特徴だ

 1950年代後半から4輪車の開発がスタートし、FFのX170と呼ばれる試作車は空冷の60度V型4気筒の360ccエンジンで、その後の2号車X190はFRとなり、水平対向4気筒エンジンの360ccだったという。

 デモンストレーション走行を行った元本田技研社長の川本信彦氏によれば、V型エンジンも水平対向エンジンも「ほかと同じようなエンジンはダメだ」という本田宗一郎社長のひと声で中止となり、当時の軽自動車用360ccエンジンとしては驚くほど高価で高精度なDOHCエンジンを開発し、このS360とT360に搭載しようと計画していたわけだ。エンジン自体はほぼ共通のものだが、それぞれ専用として開発された。

 S500市販時には、“世界に通用するホンダスポーツ”が狙いだったため、全幅が135mmワイドになり、全長が310mm延長されたボディになり、エンジンも531ccにアップされたS500として世に送り出された。それでもパフォーマンス的に本田宗一郎氏の満足を得られず、わずか3カ月で600ccにアップされている。

 そのSシリーズでは1966年にS800に。さらに1968年には最終型となるS800Mとなり、デビュー時に独自のドライブトレーンだった“チューン駆動”によるリアスイングアクスルからパナールロッドを持つリジッドアクスルに変更され、1970年5月まで約2万5000台が生産されSシリーズの幕は閉じた。

 それから1999年まで約30年近いブランクがあったが、伝統のSがS2000として登場、2009年まで作られたのは記憶に新しいことだが、その間、ホンダはNSX、ビートなどのミドシップにもトライ。ホンダのスポーツスピリットは伝承されているが、このS360の復元のプロジェクトでは当時の情熱ある技術の伝承がひとつの目的だったと責任者の小林康人LPLは説明する。

 来年このS360の正統派の後継車、S660が世に問われることになるが、その前にホンダ“S”の原点を知ることは、ホンダの新しいチャレンジにとっても必要なことだったのは間違いない。

この小ささこそがS360の最大の魅力だ
この小ささこそがS360の最大の魅力だ
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次ページは : ■全日本自動車ショーで配られた幻のカタログ

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