2025年7月18日、一般財団法人トヨタモビリティ基金は、交通事故死傷者ゼロを目指す「タテシナ会議」の第3回を、長野県茅野市の蓼科山聖光寺で開催しました。WHO調査によると世界で年間119万人が交通事故で亡くなっており、日本でも歩行中・自転車乗車中の事故が高止まりする現状を踏まえ、本会議では、自動車安全技術の普及に時間を要するなか「今できること」として人の行動変容を促す施策を討議しました。
文:ベストカーWeb編集部、写真:トヨタモビリティ基金
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長野県茅野市蓼科高原にある「蓼科山聖光寺」は、1970年にトヨタグループが施主となって創建された法相宗の寺院。奈良・薬師寺の別院として、「交通安全の祈願」、「交通事故遭難者の慰霊」、「負傷者の早期快復」を三大柱に掲げている。境内には標高約1,200メートルの高地ならではのソメイヨシノ約300本が植えられ、毎年7月の夏季大祭にはトヨタグループ各社のトップ陣が集って交通安全を祈願している。
「タテシナ」会議はそうした背景を持つ聖光寺、夏の夏季大祭で、どうすれば交通事故を減らせるか真剣に考え合うシンポジウム。
WHOの調査(2023年)では、世界で年間119万人が交通事故で命を落としており、特に5〜29歳の若年層では最も多い死因とされています。国内でも、歩行中および自転車乗車中の事故発生件数が高止まりしており、年齢別では60代以上や7歳児の死傷者が多い状況が続いています。
本年実施された第3回タテシナ会議では、技術普及に時間とコストを要する自動車安全機能のさらなる進化と並行し、私たち一人ひとりが“今できる”対策として人の行動変容に重点を置くことがテーマとなりました。「クルマ・人・交通インフラ」の三位一体アプローチを前提に、どのような情報発信やルール設計が行動に結び付くのかを探る議論が交わされました。
ファシリテーターを務めたモータージャーナリスト岡崎五朗氏のもと、自動車経済ジャーナリスト・池田直渡氏、警察庁審議官(交通局担当)・阿部竜矢氏、トヨタイムズ編集長・富川悠太氏らがパネルディスカッションを展開。信号のない横断歩道での一時停止率向上事例をはじめ、事故事実に基づく報道が受け手の“自分ごと化”を促し、行動見直しの契機となる可能性が示されました。
阿部審議官からは、沖縄県警察本部・トヨタモビリティ基金・トヨタ自動車などが連携する「沖縄ゆいまーるプロジェクト」が紹介され、官民でのデータ連携による道路環境改善や啓発活動への活用が提案されました。地域密着の取組を全国展開する可能性にも言及され、データ駆動型の安全施策が注目を集めました。
参加メンバーのWoven by Toyota隈部肇CEOは「ヒト中心で交通安全を考える」をテーマに登壇。ソフトウェアプラットフォーム「Arene(アリーン)」を活用したSDV(Software Defined Vehicle)の開発加速や、歩行者視点で「守りたくなる」ルール設計の重要性を強調。Woven Cityのテストコースを通じた実証実験事例が共有され、技術と人間工学を融合した新たな安全アプローチが示されました。
会場には、子供が危険を体感できるプロジェクションマッピング没入体験、事故多発地点を再現する交通デジタルツイン型ドライビングシミュレータ、高齢者歩行事故の危険箇所を可視化し情報提供を行う手法、高齢ドライバーの安全運転支援モデル、自転車乗車時のヒヤリハット防止策など、2023年発足の分科会活動成果が展示されました。参加者は各展示を通じて、即時に導入可能な施策と将来構想を体感しました。
タテシナ会議の分科会では、現在「データ活用・危険地点見える化」「高齢者安全運転支援」「新しい児童への啓発」「自転車・二輪」「海外」の5分科会で構成され、約43社・200名が参画。車両技術、啓発、インフラ整備を横断的に進め、交通事故死傷者ゼロの実現時期を前倒しする具体的な取組を推進しています。
閉会にあたり、トヨタ自動車代表取締役会長・トヨタモビリティ基金理事長の豊田章男氏は、「交通事故をゼロにするために、みんなが自分事としてできることをやろう」と呼び掛けました。
自動車メーカーができること、行政ができること、ユーザー一人ひとりができること、そしてメディアができること。自分の持ち場でそれぞれがそれぞれの仕事をすることで、交通事故を減らしましょう、という呼びかけと受け取りました。
自動車の駆動ユニット多様化、自動運転(運転補助)技術の発達、AI技術の発展、関税、暫定税率、電動キックボードなどの新型モビリティとの共生と、モビリティ社会はまさに「百年に一度の変革期」を迎えています。
そうした中でも「交通安全社会の推進」はモビリティ関連企業にとっては常に一丁目一番地。誰もが安心して移動できる社会を目指して、さまざまな「語り合い」を積み重ねて、交通安全社会へ進んでゆきたい。









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