ホンダらしい開発とは?
クルマ好きの立場でいえば、好感を持てるのはオデッセイだろう。さまざまな機能をバランス良く両立させて、優れた商品に仕上げた。
しかしクルマ好きは、ミニバンをほとんど買わない。「いくら良いクルマでも、売れなければ意味がない」という見方をすれば、成功作はアル&ヴェルだ。
同様のことはSUVの開発者からも聞かれる。「特に北米で売るには、視線が低いとダメ。そこで設計する時も、まず視線の高さ(地上高)を決める。そこから床の高さを割り出す」という。
視線の高さが求められる背景には「遠方の様子をなるべく早く知りたい」という、治安などに基づく緊張感もあるだろう。クルマのユーザーにとって、走り、居住性、積載性といった機能が常に最優先されるわけではない。
そしてクルマの合理性よりも、デザインを中心とした顧客満足度で売れ行きを伸ばす商品開発は、もともとトヨタの得意ワザだった。現在販売されている車種で、そこが最も良く分かる車種がアル&ヴェルだ。
逆にオデッセイは、ホンダらしく、売れ行きよりも機能を優先させる開発を行った。加えて最近のホンダでは、N-BOXの販売が絶好調だ。N-BOXの売れ行きは、国内で売られるホンダ車の30%前後を占める。
その結果、ユーザーの間で「ホンダは小さなクルマのメーカー」というイメージが定着した。販売店もN-BOX、N-WGN、フィット、フリードの販売活動で手一杯だから、オデッセイやステップワゴンはすべて売れ行きを下げている。
エルグランドと比べると
エルグランドについては、アル&ヴェルと比べる以前に、エルグランド自体に問題が多い。オデッセイのような低床設計ではないのに、全高は1815mmだから、アル&ヴェルよりも120mm低い。この影響で室内高も100mm下まわり、車内に入ると天井が低く感じる。
室内高の不足もあって、3列目シートは、床と座面の間隔が足りず膝が持ち上がる。セレナの3列目の方が快適に座れるほどだ。荷室も床が高い。しかも3列目を前側に倒して荷室を拡大する方式だから、倒した時には、荷室の床がさらに持ち上がって荷室高はますます減ってしまう。
アル&ヴェルやオデッセイなら、3列目を畳んで自転車などを積めるが、エルグランドでは難しい。
エルグランドは先進安全装備の採用も遅く、歩行者検知の可能な衝突被害軽減ブレーキを装着したのは、2018年12月であった。
現行エルグランドの発売は2010年だから、基本設計も古く、その後の改良も怠ったから、商品力が一層見劣りして売れ行きも伸び悩んだ。走行性能もオデッセイには負けているから、選ぶメリットが乏しい。
エスティマはどうだろう。フルモデルチェンジを受けずに生産を終えた背景には、複数の理由があった。まずは今後のミニバン市場の需要が不透明なことだ。ミニバンは一部の海外市場でも注目されているが、世界的にはSUVと違って数多く売れるカテゴリーではない。
エスティマの復活はありえるのか?
またアル&ヴェルが好調に売れているため、サイズの近いエスティマを開発しても、ムダに終わるのではないかという心配もあった。トヨタはホンダに比べると商品開発における失敗を恐れる傾向が強く、エスティマを廃止した。
そこでトヨタの開発者に次期エスティマについて尋ねると、以下のように返答された。
「現行アル&ヴェルのプラットフォームを使って次期エスティマを開発すれば、天井が少し低くて軽いボディを生かし、タイヤサイズも工夫することで、環境性能の優れたLサイズミニバンに仕上げられる。新しいミニバンのあり方も追求できるが、その計画は今のトヨタには一切ない」。
今のトヨタはアル&ヴェルを含めて優れた商品を開発しているが、最もダメなのは、この開発者が述べているような無念さを残していることだ。
3代目エスティマが2016年にマイナーチェンジを受けた時、同年8月の対前年比は、300%近くまで跳ね上がった。
発売から10年も経過しながら、フルモデルチェンジを行わず腰の引けたマイナーチェンジで済ませたのに、前年に比べて3倍のユーザーがエスティマを購入したのだ。トヨタは、この時にエスティマを買ったユーザーの気持ちをしっかり受け止めるべきだ。
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