2020年3月の販売台数は、最上級セダンの「レジェンド」が46台、2000万円を超えるスーパースポーツの「NSX」は僅か2台。しかし、ともにその“実力”は申し分ない。なぜホンダの高級車は上手くいかないのか?
ホンダといえば、昔から比較的安価な大衆車クラスに画期的なモデルを送り出してきた。古くはシビックやシティ。21世紀に入ってからはフィットが大ヒット。そして現在は、軽自動車のN-BOXが、販売台数日本一の座に君臨している。
反面、高額車・高級車で成功した例は、あまり思い浮かばない。なぜなのか? 具体例に挙げながら、なぜ高いホンダ車はうまくいかないのかを考えてみよう。
文:清水草一
写真:編集部、HONDA
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<上級セダン部門>アコード/レジェンド
新型アコードに乗ると、非常によくできていて感動する。デザイン、インテリア、動力性能、燃費性能、快適性、安全性などなど、すべてが高い次元でバランスされていて、欠点が見当たらないと言ってもいい。
ところが、国内ではまったく存在感を発揮できず、販売も低迷している。いや、低迷というより最初から期待されていない(北米や中国では好調に売れていて、ホンダの屋台骨を支えているが)。
レジェンドも、走りのすばらしさに驚かされる。3モーターハイブリッドシステム「SPORT HYBRID SH-AWD」は、実に高級で力強く、メカニズム的にも大変凝っている。ホンダの技術屋魂ここにあり。しかしこちらは日本だけでなく、全世界で販売不振だ。
どちらもクルマの中身だけを考えれば不思議な現象だが、自分がこのクラスのセダンを検討していると仮定すれば、おのずと理由が見えてくる。
ホンダは、ブランド力が圧倒的に不足しているのである。
アコードは465万円、レジェンドは720万円のワングレード。価格やサイズを考えると、ライバルはトヨタの高級セダンとドイツ御三家ということになるが、それらと戦うにはブランド力がまるで足りない。
問題はクルマの出来ではない。このクラスの場合、クルマがいいのは当然で、あまり問題にされない。勝負はブランド力で決まる。なぜなら高級セダンは、実用性や性能よりも、周囲に一目置かれるために買うものだからだ。
トヨタは、皇室を頂点とする日本のエスタブリッシュメント御用達。権威の象徴だ。そしてドイツ御三家は、世界に冠たる高級車ブランド。その牙城を突き崩すには、何十年もの積み重ねが必要だ。
しかしホンダは、一時、ブランド力でトヨタに迫った時期があった。
1980年代、トヨタは保守的で面白みがないというイメージが強まったのに対して、ホンダはF1での快進撃もあり、都会的で知的で、それでいてパワフルなイメージを蓄積していた。
そういう時期に発売された初代レジェンド(1985年発表)は、クラウンへのアンチテーゼとして、一部ではあるがインテリ富裕層に食い込んだ。当時、レジェンドに乗っていると、周囲に一目置いてもらえたのである。
ところが、バブル崩壊によってホンダは経営難に陥り、オデッセイやステップワゴンなど、当時の「RV」に活路を見出すことになる。
それによって経営を立て直したが、高級イメージは立ち消え、スポーツイメージも薄らいで、純ファミリーカーメーカーのイメージになった。
つまり日本では、アコードやレジェンドは、どんなに中身が良くても「フィットのデカいの」なのだ。
トヨタもタンク/ルーミーやパッソを売っており、実際にはファミリーカーメーカーだが、歴史を紐解けば、最初に発売したのはクラウン。つまり、上から下に広げていった形だ。
一方、ホンダが最初に作ったのは、軽のN360。下から上に伸びようとした場合、ちょっと気を抜くと、てっぺんが崩れてしまう。
北米でアコードがよく売れているのは、あちらではそれが日本で言うカローラ的存在であることと、従来的権威よりも新たな挑戦者を好む国民性が影響しているだろう。
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