メルセデスの光を操る技術
一方で、LEDだからこそ実現できる高度な技術がある。その代表例がメルセデス・ベンツのマトリクス方式のLED(マルチビームLEDヘッドライト)や最新のデジタルライトだ。
マルチビームLEDヘッドライトでは片側ヘッドライトだけで84個もの高輝度LEDを搭載し、それぞれを独立して制御することで、前方監視カメラと連携しながら対向車や前走車だけをピンポイントで減光する。
それ以外の道路や歩行者、自転車、標識などはそのまま明るく照らし続けるため、自車の視界を確保しながら相手を眩惑しないという理想的な配光が可能になっている。非常に細かく制御される様子を見ると、「ここまでできる時代になったのか」と感心させられる。
国産車でもマツダなどが「アダプティブ・LED・ヘッドライト(ALH)」やオートマチックハイビームを採用している。確かに基本性能は高く、対向車や前走車への配慮も十分に行われている。
しかし、片側6個のLED素子数や制御の細かさという点では、メルセデスのシステムとは大きな差があったと言える。
現状では前走車を避けて照射することはできても、歩行者だけを避けたり、標識だけを強調したりといった細かな光の演出までは難しい。今後、カメラの認識性能やAI技術がさらに進化すれば、歩行者や自転車の目だけを避けながら周囲を照らすような、より高度な制御も実現していくだろう。
眩しさは「受ける側」でも防げる 自動防眩ミラーの実力
またヘッドライト側だけでなく、受ける側にも工夫の余地はある。
BMWやメルセデス・ベンツなどの輸入車では、自動防眩ルームミラーはもちろん、ドアミラーまで自動防眩機能を備える車種が多い。後続車のライトが強く照射されても、ミラー自体が自動的に減光するため、眩しさを大きく軽減できる。
もし将来的にフロントガラスそのものが特殊なサングラスのように必要な部分だけ減光できるようになれば、ヘッドライトを過度に制御しなくてもドライバーの目を守ることができるかもしれない。光を出す技術だけではなく、光を受ける技術も安全には欠かせないのである。
レースが磨いてきたヘッドライトの凄さ
ヘッドライトの歴史を振り返ると、かつては電球とリフレクター、そしてレンズの組み合わせだけで光をコントロールしていた。
ドライビングランプ、フォグランプ、スポットランプなど、それぞれ専用のレンズを使い分ける必要があり、例えばモンテカルロ・ラリーを走るマシンには4灯、6灯もの補助ランプが装着されていた時代もあった。その姿は機能美そのものであり、ラリーカーを象徴する風景でもあった。
耐久レースにおいても事情は同じだ。ル・マン24時間では真夜中に350km/hを超える速度で走るため、400m以上先まで正確に照らせるヘッドライトが求められる。自身もル・マンを走った経験があるが、ユノディエールの長いストレートでは街灯など一切存在しないにもかかわらず、ヘッドライトだけを頼りに375km/hの速度で走行することができた。
その性能には驚かされた。しかし一方で、速いマシンに追いつかれた際には、そのヘッドライトがミラー越しに強烈な光となって飛び込み、一瞬視界を失うほど眩しかったことも鮮明に覚えている。現在のような自動防眩ミラーが当時レーシングカーにも普及していれば、ドライバーへの負担はかなり軽減されていただろう。




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