駐車場を見渡すと、古いクルマはノーズが薄く、新しいクルマは軒並みボンネットが分厚い。この変化は単なるデザインの流行ではなく、国が定めたある基準が深く関わっている。今回は、「歩行者頭部保護基準」の中身を解説していきたい。
文:佐々木 亘/写真:ベストカーWeb編集部、スバル、マツダ、国土交通省、トヨタ
【画像ギャラリー】昔のプラドこんなにボンネット低かったけ!? 歴代ランクルプラドでわかるボンネットの変遷(7枚)画像ギャラリー交通事故死者の3割を占める歩行者事故という背景
この基準が導入された背景には、深刻な統計データがある。国土交通省の資料によれば、交通事故死者数全体のうち歩行者事故が占める割合は約3割にのぼり、そのうち過半数が頭部の損傷によって死亡している。交通事故死者数そのものは年々減少傾向にあったが、歩行者が事故に遭った場合に死亡や重傷に至る割合の高さは依然として大きな課題として残されていた。
こうした状況を受けて国土交通省は、自動車と歩行者が衝突した際に歩行者の頭部が受ける衝撃を減らすことを目的に、「歩行者頭部保護基準」を導入した。道路運送車両の保安基準および細目告示が改正され、新型生産車では2005年9月から、継続生産車(フルモデルチェンジのタイミングで対応)では2010年9月から適用が始まっている。対策が技術的に難しいとされる車高の極めて低いクルマやSUV、貨物車、キャブオーバー車、ハイブリッド車については、それぞれ2年遅れでの適用となった。
ボンネットと硬い部品の間に「衝撃を吸収する空間」が必要
この基準が求めているのは、歩行者と衝突した際に、頭部がボンネットに接触した瞬間の衝撃を可能な限り緩和することだ。ボンネットの下には、エンジンやバッテリー、各種補機類といった硬く動かない部品が数多く配置されている。もしボンネットの表面とこれらの硬い部品との間にほとんど隙間がなければ、歩行者の頭部はボンネットの薄い鉄板を挟んで、その下にある金属の塊に直接ぶつかるのとほとんど変わらない衝撃を受けてしまうのだ。
そこで基準では、ボンネットとその下部構造物との間に一定のクリアランス(空間)を確保することが求められる。実際の試験基準では、このクリアランスが40mm以下の箇所は特に厳しくチェックされる対象になっており、衝撃吸収のための余裕がいかに重要視されているかがうかがえる。ボンネットの位置を意図的に高くすることで、この緩衝空間を確保しているというのが、フードが分厚くなった直接の理由だ。
基準への適合を確認する試験では、人間の頭部を模した「頭部インパクタ」と呼ばれる装置を、規定の速度でボンネットやフロントガラスに衝突させる。ボンネットの後方側面から前面ガラス下方にかけて、車両接地面から600mmの高さを基準に設定された「BLE基準線」など、細かく定義された基準線に沿って複数の衝突ポイントが設定され、それぞれの箇所で衝撃の大きさを示す「頭部障害基準値」を満たしているかが検証されるのだ。
2023年の基準改定では、この試験エリアにフロントガラスも含まれることになり、試験エリア全体の3分の2以上の面積で厳しい基準値「HIC1000」を、残りのエリアでも「HIC1700」を超えないことが求められるようになった。新型車は2024年7月、継続生産車は2025年7月から適用されており、規制の対象範囲は年々拡大している。









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