アルファードの「変化」と人気逆転のワケ
押し出しの強いヴェルファイアの人気を受けて、アルファードも3代目ではフロントグリルを大きくして登場した。それが2015年だ。
そして、さらに5ナンバーミニバンのエスクァイアのように縦基調のメッキ装飾を強調し、バンパー下端までグリルを連続させ、かつヘッドライトを横へ細長い造形とした後期型になって、ヴェルファイアよりさらに一瞬にして存在を知らせる顔付きになった。
そこから、ヴェルファイアとアルファードの逆転が起きはじめたようである。
大きなメッキグリルを装備し、顔つきをきつく、押し出しを強く見せることが好まれる傾向は、アルファードに限らず、軽自動車から広がっている。
この傾向は国内にとどまらず、ドイツのメルセデス・ベンツやBMWも、あらゆる車種で顔つきをはっきり見せるグリルの造形が時代を作っている。
なぜ、世界的に顔つきのはっきりした、大きくて押し出しの強いグリルがもてはやされるようになったのだろうか。
この傾向は、2005年にどいつのアウディA6が、シングルフレームグリルといって口を大きく開けたような造形を採用してから世界的に広がっていった。そのデザインをしたのは、元日産の和田智である。
理由の一つは、コンピュータ解析による車体設計が行われるようになったからではないかと考えられる。
CAD(コンピュータによる設計)が普及したことにより、コンピュータシミュレーションによって車体の隅々まで詳細に空気の流れを検証できるようになった。
端的にいえば、空気抵抗の少ない造形をコンピュータ上で的確に設計できるようになったのである。
空気抵抗の少なさは、燃費に直結する。高速走行時が主体となるが、それでも時速80km以上になると燃費の悪化は見逃せない。
また、空気の流れは風切り音などにも影響するので、静粛で快適な乗り心地に関係してくる。
シミュレーションは、どの自動車メーカーでも同じようにコンピュータで検証できるため、空気抵抗の少ない外観の造形は一つの理想像へ集約されていく。
つまり、車体の外観はどれも同じ方向となり、顔を変えるしか差別化できないことになりかねない。
かつて、人が空気の流れを想像していた時代は、たとえ風洞実験を行ったとしても部分的な数値でしか計測できず、あとは想像して補ってきた。外観の造形はカーデザイナーの感性から生まれる部分が残されていた。
しかし、今日では、コンピュータシミュレーションが示す形を外すことができなくなったのだ。それほど燃費や静粛性への要求が高まったといえる。
では、顔つきをどうするかといった場合、もっとも形を変えやすいのはグリルである。
ヘッドライトの造形も、かつてのシールドビームやハロゲンランプからHID(ディスチャージランプ)になり、そして現在のLEDへと技術が発展するにしたがって、どの自動車メーカーも最新技術を使うと似たような形状になりがちだ。
あとは、デイタイムランニングライトの点灯のさせ方で、見え方を変えるくらいだろう。
そうしたことが軽自動車から上級車種まで影響を及ぼし、結局、グリルを大きくする以外に区別をつけにくくなっているのである。
大きなグリルで押し出しの強いほうが、多くの消費者に好まれる現状で、よりはっきり顔を示したアルファードに、人気が集まったのだろう。
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